子供というのは感受性が豊かで、純粋な心の持ち主であるが故に、時として大人には見えない「何か」を見てしまうことがあると言われている。
そして、子供たちが日常的に利用する通学路。
そこは子供たちの無邪気な笑顔と恐怖が隣り合わせに存在する、不思議な空間と言えるだろう。

舞台は関東の山の方、とあるのどかな田舎町。
そこに住む小学3年生のユウタ君は、雨が降ると決まっていつもの通学路の景色がガラリと変わって見えてしまう奇妙な現象に悩んでいた。
ユウタ君の通学路は田んぼの脇を通る一本道。
普段は太陽の光を浴びて緑色に輝く稲穂が風になびく美しい風景が広がっている。
しかし、雨が降るとその風景は一変する。
稲穂はまるで、誰かの手によってぐったりと頭を垂れ下げたかのように地面に這いつくばり、その姿はまるで無数の白い手が地面から生えてきたように見える。
そして田んぼの水面には、得体の知れない黒い影がゆらゆらと漂い始める。
それはまるで底の知れない闇から何かが這い上がってこようとしているような、不気味な影。
その光景を見るたびに言いようのない恐怖に襲われ、走ってその場を去っていた。
ユウタ君は自分に言い聞かせるように「きのせい」と呟くが、何度目をこすっても雨が降ると、決まって田んぼの風景は変わってしまうのだ。
そしてある日のこと。
ユウタ君はいつものように激しい雨の中、傘をさして下校していた。
すると前方の田んぼの脇に、一人の女性が立っているのが見えた。
女性は頭から足まで白い合羽を着ている。
そしてユウタ君の方を見て小さく手を振っていた。
「誰だろう?」
ユウタ君は一瞬立ち止まったが、その女性に見覚えがない。
しかし、なぜかユウタ君はその女性から目を離すことができなかった。
女性はゆっくりと近づいてきて、ユウタ君の目の前に来ると黙ったまま指をさした。
指をさした方を見てみると、そこはいつも景色が変わって見えてしまう田んぼの端あたりだった。
ユウタ君は白い合羽の女性の視線の先にある、田んぼの端を見つめた。
田んぼの脇、アスファルトの道のすぐ脇に一本の大きな木が生えている。
普段、ユウタ君が通学路として利用している時には全く気が付かなかったが、その木の根元に小さな祠が建っていたのだ。
祠は長い間人の手が入っていないようで古びて朽ち果てていた。
じめじめとした湿気を帯びた空気が、祠の周りを澱のように重く覆っているのが分かる。
ユウタ君は恐怖と好奇心に駆られながらもゆっくりと祠へと近づいていった。
その時。
ピカッ!ゴロゴロゴロ…!!
激しい雷鳴が轟き、辺り一面がまばゆい光に包まれる。
「うわあああああっ!」
ユウタ君は恐怖のあまりその場にしゃがみ込み、両手で耳を塞いだ。
しばらくして雷鳴がやみ、辺りが静けさを取り戻すとユウタ君は恐る恐る顔を上げた。
すると…先程までそこにあったはずの大きな木も、小さな祠の姿も跡形もなく消えていた。
ユウタ君がどういう事だろうと思いながら、先程の白い合羽を着た女性に聞こうと振り向くと、いつの間にか女性も消えていた。