ある年の七夕の夜、神社の境内は色とりどりの短冊で飾られた笹の葉で華やかだった。
Yさんはその神社で毎年行われる七夕祭りを楽しみにしており、今年も友人たちと一緒に参加していた。
夜空を見上げながら笹の葉を眺めていると、一枚の短冊が目に留まった。
薄暗い境内の中で、その短冊だけが妙に気になったのだ。
短冊には他の願い事とは違って震えるような文字で「お願い、ここから出して」と書かれていた。
Yさんは驚き、友人たちにその短冊を見せたが、みんな冗談だろうと言って笑い飛ばした。
しかしYさんはどうしてもその短冊が気になり、神社の神主に話を聞くことにした。
神主はその短冊を見て険しい顔をし
「この短冊は誰が書いたのか心当たりはないが、毎年必ず一枚だけ現れるんだ」
と言った。
「それはどういうことですか?」
Yさんが聞くと、神主は語り始めた。
「昔、この神社の近くに小さな村があった。
その村には毎年七夕の夜に姿を消す子供たちがいたという噂があり、村人たちはこの神社に祈りを捧げ、子供たちが無事に戻ることを願ったが、ある年から急にその失踪事件はなくなった。
だが、その年からこの短冊が現れるようになったんだ」
Yさんは鳥肌が立つのを感じた。
「では、その短冊の願い事は…」
「そうだ。その短冊に書かれた『お願い、ここから出して』という言葉は、行方不明になった子供たちの魂が書いたものだと言われている。
彼らはどこかに囚われているのかもしれない」
Yさんはその言葉を聞いて怖くなった。
友人たちと一緒に神社を後にしたが、頭の中にはずっとその短冊のことが離れなかった。