7月の蒸し暑い夜、Aさんは仕事が遅くなり終電間際の電車に駆け込んだ。
車内は思ったよりも混んでおり、座席に座ることはできなかったがなんとか立っているスペースを見つけた。
電車が出発し、疲れた体を窓に寄りかからせながら、Aさんはぼんやりと外の景色を見ていた。
次の駅に着くと少しずつ乗客が降りていく。
しかし何かがおかしかった。
一人、また一人と降りるたびにその姿が消えるように見えた。
「あれ?人が消えた・・・」
立ったまま寝ちゃったんだろうか?そう思ったのだが、次の駅でも同じ現象が起きた。
乗客たちは駅に着くたびに姿を消し、車内はだんだんと静かになっていった。
Aさんは不安を感じ始めた。
何なんだこれは、一体何がおきてるんだ!?
恐ろしくなったAさんは、次の駅で降りる事にした。
やがて次の駅に到着しドアが開いた。
Aさんは急いで降りたのだが、駅のホームが薄暗く、周りを見渡しても誰もいない。
いくら終電だからと言っても誰もいないのはおかしい。
「どうして誰もいないんだ?」
Aさんは急いで電車に戻り車内を見回すと、車内の中にはAさんだけになっていた。
その後、知らない駅をいくつか通過していき、気がつくと電車は終点に近づいている。
車内の照明が一瞬ちらついた。
「ここは一体どこなんだ!?」
心細くなったAさんは
「きっとこれは夢だ、今僕は寝ているんだ」
と願うように繰り返す。
すると車内放送がなり、間もなく終点という低い声が聞こえ、しばらくすると電車が終点に着き車内の明かりが完全に消えてしまった。
Aさんは急いで外に出ようとしたがドアが開かない。
パニックに陥ったAさんはドアを叩き続けたが、車掌が助けに来る気配はなかった。
そのとき、車内に不気味な声が響いた。
「帰れ」
Aさんは背後を振り返ると、そこには車掌さんらしき人が立っていたのだが、目は黒く、肌には血の気が全く無く青白い
Aさんがびっくりして固まっていると、車掌さんらしき人がAさんに手を伸ばし顔を掴んだ。
するとAさんの視界は次第に暗くなり、気を失った。
次にAさんが目を覚ますと車掌さんに揺すられていた。
「お客さん、終点ですよ。大丈夫ですか?」
Aさんはドアの近くの椅子にもたれ掛かるようにして倒れていた。
周囲を見渡すと車内は明るく、いつもの風景に戻っていた。
「夢だったのか?」
Aさんは立ち上がり、ふらつく足でホームに降りた。
疲れ切ってふらふらと駅の構内を歩いていると、構内にある鏡が目に入った。
何気なくその鏡を覗き込むと、自分の顔に掴まれたような手の痕が付いていることに気づいた。
なんだこれは、と眺めながら手でさすっているとだんだんとその痕は消えていったのだが、それ以来、Aさんは終電に乗ることを避けるようになったそうだ。