小学生だったSさんは、毎年家族と一緒に亡くなった祖父の墓参りに行っていた。
真夏の日差しが照りつける中、家族は祖父の墓に向かい手を合わせて供養を始めた。
墓参りが終わり家族が帰ろうとしたその時、Sさんが周りの墓地を見渡していると、そこには見覚えのない墓石がいくつも並んでいて、奥の墓石の手前に白い着物を着た人影が見えた。
「何してるんだろう?」
Sさんは気になり、家族にそのことを伝えたが誰も気に留める様子はなかった。
Sさんは再びその人がいた方を見たが、すでにいなくなっていた。
「帰っちゃったのかな」
帰り道、Sさんは不思議な気持ちを抱えたまま家に戻った。
その夜、夢の中でSさんは再びその白い着物を着た女の人を見た。
その人はゆっくりとSさんに近づき、静かに囁いた。
「私は帰りたい…」
翌日、Sさんはその夢がどうしても気になり、再び墓地に向かった。
昼間の墓地は静かで、人の気配はほとんどなかった。
Sさんは昨日見た場所に行き、白い着物の人影が立っていた位置に立ち止まった。
その時、背後からふと風が吹き、何かが耳元で囁くような気配を感じた。
急いで振り返ったが誰もいない、しかし何かの気配が確かに感じられた。
「帰りたい…」
Sさんはその囁き声を再び耳にした。
周囲を見渡すがやはり誰もいない。
変だなと思いつつ足元に目をやると、古びた墓石があった。
そこには名前が刻まれているのだが、難しい漢字な上にほとんど削れていて苔むしていた。
「この人が何か言ってるのかな?」
そう思ったSさんは、その墓石の前で手を合わせ、心の中で
「ごめんなさい、僕には何も出来ない。でも手を合わせるね」
と言った。
すると不思議なことに先ほどの囁き声が消え、周囲の空気が少し軽くなったような気がした。
その日以降、Sさんは白い着物の人を見ることはなくなった。