
日が傾き始めたお盆の夕方、俺はとある山を一人で登っていた。
目的は山頂付近にある小さな祠。
毎年お盆には、そこに登って亡くなった祖父を偲んでいたのだ。
しかし今年は少し道を間違えたらしく、人気のない獣道に入ってしまったらしい。
辺りは徐々に暗くなり、不安が募る中、前方に人影が見えた。
「よかった、誰かいる」
安堵した俺は、その人影に向かって声をかけた。
「すみません!道に迷ってしまったみたいなんですけど…」
しかし人影はこちらを見る事もなく、立ち止まることなくこちらに向かって歩いてくる。
距離が縮まるにつれて、異様なことに気が付いた。
その人影は登山ウェアを着てザックを背負っているのだが…顔がないのだ。
顔の部分はただのっぺりとしている。
恐怖で声も出ず、ただ立ち尽くすことしかできない
それはだんだんと近づいてきて、やがてすぐそばを通り過ぎていった。
その瞬間、背筋が凍るような寒気を感じた。
そしてそれが通り過ぎた後、辺りはまるで時間が止まったかのように静まり返った。
俺は恐怖で体が震えるのを感じながら、さっき通り過ぎたのがいない事を確認し、少し時間を潰してから来た道を引き返した。
あれは一体何だったのだろうか。
もしかしたら、あの山で遭難した登山者の霊だったのかもしれない。
お盆の時期は、あの世とこの世の境目が曖昧になると言う。
もしかしたらあの時、あの世と繋がっていたのかもしれない。
それ以来、俺はお盆の時期に山へ行くことはなくなった。