Uさんが体験したというこの話は、古い旅館での出来事。
Uさんは仕事の都合で地方の古びた旅館に泊まることになった。
その日は夕方から激しい雨が降り続いており、旅館の廊下には湿気が染みついているような重い空気が漂っていた。
彼の部屋は木造の和室で、襖で二つに仕切られていた。
見た目が随分古びた感じの部屋で少し不安だったものの、部屋は清潔で特に異常はなかった。
しかし夜が更けるにつれて、Uさんは妙な違和感を覚え始めた。
外は風の音と雨が強まる中、ふと隣の部屋から「カサ…カサ…」と何かが擦れるような音が聞こえてきたのだ。
気のせいかと思いながらも音はしばらく続き、無視できないほどになっていった。
Uさんはその音の正体を確かめようと、仕切られている襖を静かに開けた。
襖の先の部屋を見た彼は言葉を失った。
そこには見知らぬ女性が立っていたのだ。
時代劇に出てくるような古びた着物を着た女で、彼女の顔はどこか青白く、髪は無造作に垂れていた。
その目はじっとUさんを見据えており、口元にはうっすらと不気味な笑みが浮かんでいた。
驚きと恐怖で固まったUさんは、数秒間動けなかった。
体がようやく動いた瞬間、慌てて襖を閉め、心臓がバクバクと鳴るのを感じた。
冷静になろうと深呼吸をしたが、その女の姿が脳裏に焼き付いて離れない。
誰かがふざけているのか、それとも夢でも見たのか。
だが再び襖を開ける勇気はなかった。
翌朝、旅館の女将にその話をすると、女将は少し困ったような顔をして曖昧に言葉を濁した。
何かを知っているかのような口ぶりだったが、それ以上は語らなかった。