ある満月の夜、これはSさんが体験した月見をしていた時の話。
その日はとても綺麗な満月で、Sさんは友人と三人で郊外の広場に出かけて月見を楽しんでいた。
風もなく少しひんやりとした夜。
月明かりが淡く地面を照らし、三人はしばらく無言で月を見上げていた。
ふと、Sさんが広場の端にある森の方へ目を向けた時だった。
月明かりの下で何かが動いているのが見えた。
人のようにも見えたが、顔ははっきりしない。
白い影がゆっくりと揺れている。
友人たちもその影に気付き、三人でその方向をじっと見つめた。
すると、その人影は静かに森の奥へと消えていった。
「今の何だったんだろう」
と友人の一人が言ったのだが、何も答える事が出来なかった。
その後もさっきのが気になり、三人で森の方を見続けていた。
すると再びその白い影が現れた。
今度はゆっくりとこちらに近づいてきたのだ。
姿は相変わらず不明瞭で、まるで月光に照らされて体が揺れているように見える。
Sさんは怖くなり「帰ろう」と友人たちに促そうとしたその時
「帰りたくない…」
その低い声にSさんたちは背筋が凍りついた。
その白い影はさらに近づいていて、Sさんたちの数メートル先というところまで来ていた。
友人の一人が声にならない叫びをあげ、Sさんたちは急いでその場から飛び出すように逃げ出した。
広場を後にしてもずっと背後から何かが見ている気がして、Sさんは足が震えて止まらなかった。
月明かりの下で何かが見ていた、という感覚だけが今も鮮明に残っているらしい。