これはKさんが中学生の時に体験した、秋祭りでの不思議な出来事。
その日は秋の収穫を祝う祭りが盛大に行われていた。
神社の本殿にはススキや団子、お米が奉納され、収穫の恵みに感謝を捧げる飾りが秋の実りを象徴していた。
出店には栗やサツマイモ、柿など秋の味覚が並び、Kさんと友人たちはそれを楽しんでいた。
境内の提灯が柔らかい光を灯し、秋らしい紅葉の飾りが風に揺れている。
祭りの喧騒の中、ふとKさんは奇妙な視線を感じ始めた。
最初は気のせいだと思い無視していたが、視線は消えることなくKさんの背後にまとわりついていた。
やがて気になったKさんは友人たちと離れ、神社の裏手へ向かっていった。
そこはもう使われなくなった古い鳥居があり、静かにススキが風に揺れていた。
その時、カサカサと音がして振り返ると、そこには狐の面をかぶった着物姿の男が立っていた。
Kさんは一瞬動けなくなりその男をじっと見つめたが、男は何も言わずに本殿の方へと静かに歩いていった。
不気味な気配がKさんの背中を冷やし、固まったまま動けなくなっていたが、祭りの太鼓の音で我に返った。
男が向かった本殿が気になったKさんは、急いで本殿の方に行ったのだが祭りの広場には見当たらない。
まさか本殿の中にいるのか?と思ったKさんは、木の格子に近づき、スマホのライトを点けて中を覗いてみた。
しかし本殿の中はそれほど大きくなく、人が隠れるような場所はなかった。
狐の面をかぶった男の姿はどこにも見当たらず、本殿はひっそりと静まり返っていた。