これはBさんが体験した奇妙な話。
秋祭りの片付けが一段落し、Bさんは会場の片隅にあるベンチに腰掛けて一息つこうとしていた。
祭りの会場はさっきまでの賑やかさが無くなり、秋の冷たい夜風が肌に当たる。
そんな会場を見つめながら、今年ももう終わりか、と思っていた時だった。
ふと遠くから複数の足音が聞こえて来る。
最初は会場の片付けをしてる人の足音だろう、と気に留めなかったが、その音はどんどん近づいてくる。
気になったBさんが音の方を見てみると、暗闇の中からぼんやりと人影が見え始めた。
着物を着た大勢の人々が、無言でゆっくりとこちらに向かって歩いてきた。
明らかに会場の片付けをしている係の人たちより多い人数だ。
Bさんは驚いて立ち上がり、その人たちに声をかけようとしたが声が出なかった。
やがてその集団は無言のままBさんの前を通り過ぎ、遠くを見たまま無表情で歩き続けていく。
やがて彼らは遠くの林の方に向かい、そのまま音もなく消えてしまった。
Bさんはあまりの異様さに血相を変え、急いでまだ祭りの片付けをしている係の人たちの元に駆け寄り、そこの道を大勢の人たちが歩いて行ったかと聞いてみたのだが、誰もが
「そっちには誰も行ってないし、そんな人たちは見かけなかった」
と口を揃えて答えた。