秋のお彼岸の時期になると、ある村の川に架かる古い橋には亡くなった渡し守が現れるという話があった。
昔その川には橋が無く、村人たちが対岸へ渡るために小舟が使われていたのだが、そこで渡し守が命を落としたという話がある。
そして毎年お彼岸の夜になると、その渡し守が橋のたもとに現れると言われていた。
村の人々は、お彼岸の期間中は夜遅くに橋を渡ることを避けていたが、どうしても渡らなければならない時もあった。
ある年の秋、お彼岸の最中に若者のYさんは遅くまで作業をしていて、どうしても橋を渡らなければならなかった。
夜が更け、月明かりだけが川面を照らす中、Yさんは不安を感じつつも橋へと向かった。
橋に足を踏み入れるとどこからともなく冷たい風が吹き、橋全体がしんと静まり返っていた。
橋を半分程渡った時、背後から何かが迫ってくる気配を感じた。
足音はないが確かに何かがついてくる。
Yさんが恐る恐る進んでいると突然足元が重くなり、まるで見えない手が彼の足を掴んで引っ張ろうとしているように感じた。
驚いて足元を見るが足には何もついていない。
恐怖で足がすくみそうになりながらもなんとか力を振り絞り、重い足を引きずるようにして全力で橋を渡り切った。
その途端足が軽くなった。
振り返って橋下を見ると、渡し守の姿がぼんやりと浮かび上がり、橋のたもとで佇んでいるように見えた。
それ以来、Yさんはお彼岸の時期に決してその橋を渡ることはなかった。
そして村でも「お彼岸の夜に橋を渡ると、亡くなった渡し守に引っ張られる」という話が広がり、誰も夜の橋を渡ることはなくなったという。