これは大学の先輩であるMさんから聞いた話。
Mさんが通っていた高校には、昔から奇妙な噂があったらしい。
「卒業式の時、ステージの中央に立ってる霊がいるんだって」
そう語り始めたMさんは、普段は冗談ばかり言う陽気な人だったが、その時だけは真剣な顔だった。
その話はMさんが高校1年生の時、放課後に部活仲間から聞いたという。
噂によると数十年前の卒業式の日、ある生徒が式の最中に急病で倒れ、そのまま命を落としてしまったそうだ。
それ以来、その生徒の霊が毎年卒業式の時期になると、夜の体育館に現れるというのだ。
「真夜中の体育館に行くと、ステージの中央に立ってるんだって。
制服姿で、じっと前を見つめながら…」
先輩のその言葉を聞いた時、正直に言って冗談かと思った。
でも噂には続きがあった。
「その霊が何かを訴えるように手を伸ばしてるらしいんだけど、その手に気づいた人が何か言葉をかけたり、声を出したりすると…次はそいつがステージに立つんだってさ」
それを聞いた瞬間、背筋がぞっとした。
話の真偽はともかく、誰もいない体育館にそんなものを想像しただけで十分怖かった。
Mさんが高校を卒業する直前、同級生数人と噂を確かめるために深夜の体育館へ忍び込んだという。
その時の話を聞いた時、私は息を呑んだ。
「ステージには誰もいなかった。
…最初はな」
Mさんは静かに続けた。
「でもみんなでステージを見てたら、急に寒くなってさ。
まるで風が吹いたみたいな感じで。
誰かが『なんか、立ってる?』って言った瞬間――」
Mさんはそこで言葉を切り、小さな声で付け足した。
「本当に見えたんだよ。制服姿でこっちを見ながら手を伸ばしてた」
誰も声を出さないようにと必死でお互いを制しながら、全員無言で体育館を出たのだという。
後から聞いた話では、その場で声を出してしまった先輩の一人が、それ以来妙な夢を見るようになったらしい。
その夢の中では自分が体育館のステージに立ち、何かを叫ぼうとしているのだが、声が全く出ないのだそうだ。
夢から目覚めた時、全身が汗でびっしょり濡れているのだという。
「まあ、全部噂話だけどさ。でもな…噂ってどっかにほんの少しは真実が混ざってるもんなんだよ」
そう言って先輩は苦笑いしていた。