秋も深まり、夜になると肌寒さを感じるようになった頃、Fさんは友人のKさんと二人で山奥のキャンプ場へ来ていた。
平日のためか他のキャンパーの姿は全く見当たらない。
静かな森の中、Fさんたちは焚き火を囲み、暖を取りながら語り合っていた。
Kさんは昔から霊感が強く、時々不思議な体験をすることがある。
今日も来る途中の道で「何か嫌な気配がする」と呟いていたのを、Fさんは少し気にしながらもいつものことだと軽く流していた。
焚き火のパチパチという音と、時折吹く風の音だけが聞こえる静かな夜だった。
Kさんが何かを思い出したように話し始めた時、彼は突然言葉を切り、焚き火の向こう側にある大きな木の上を指差した。
「おい…あれ…」
Kさんの声は震えていた。
FさんはKさんの指差す方へと視線を移した。
そこには信じられないものがいた。
木の幹に白い人のようなものが張り付いていたのだ。
それはまるで白い布を被ったような、あるいは白い煙のような、はっきりしない輪郭だった。
しかし確かに人の形をしており、木の幹にしがみつくようにしてこちらを見ているように感じられた。
「なんだあれ?」
Fさんは思わず呟いた。
Kさんは顔を青ざめ、言葉を発することもできない様子だった。
それは微動だにしない。
ただじっとこちらを見ているようだ。
いや、見ているというより監視していると言った方が正しいのかもしれない。
焚き火の炎が揺らめき、それの輪郭が不気味に歪む。
Fさんは恐怖を感じながらも目を離すことができなかった。
それはまるでマネキンのように全く動かない。
しかしその存在感は圧倒的で、Fさんたちの心を締め付けていた。
「おい、逃げようっ」
Kさんが震える声で言った。
Fさんも頷き、急いでテントに戻り荷物をまとめた。
Kさんは時折人影の方を振り返りながら、怯えた様子でFさんの後をついてきた。
テントを撤収し車に乗り込むまでの間、あの白い人影はずっと木の上に張り付いたままだったそうだ。