地方の小さな映画館でアルバイトをしていたMさん。
そこは昔から地元の人たちに親しまれている劇場だが、古さもあり、夜になると少し薄気味悪さがあった。
Mさんはある日の閉館作業中、上映が終わって静まり返った劇場内を一人で見回っていた。
忘れ物がないか座席を回って確認していると、劇場の一番隅の席に人が座っているような影を見つけた。
「すみません、もう終わりなんですけど」
そう声をかけたが影は微動だにしない。
近づこうと足を進めた瞬間…ふっと、その影が消えた。
驚いたMさんは立ち尽くし、劇場内をぐるりと見回すが誰もいない。
その日以降、Mさんは何度か同じような光景を目撃するようになる。
上映が終わり、客が全員出て行ったはずなのに、確認に向かうと隅の席に人影が座っている。
最初は見間違いかと思ったが、その影に向かって声をかけると決まって音もなく消えるのだ。
怖くなったMさんは館長にこの出来事を打ち明ける。
すると館長は、どこか諦めたような顔でこう語った。
「……ああ、その席か。昔からいるんだよ」
詳しく聞こうとしたが館長はそれ以上何も話さなかった。
気味が悪く思いつつもMさんは仕事を続けた。
だがある晩、劇場の片付けをしていると今までとは違うことが起きた。
隅の席に座っている人影を見つけ、いつものように声をかけると影がゆっくりと立ち上がったのだ。
そこにはぼんやりと透けた人影が、こちらをじっと見つめている。
顔は暗く表情は分からない。
Mさんが恐怖で動けずにいると人影はゆっくりと通路に歩き出し、劇場の出口の方へと消えていった。
後日、Mさんはふと気になってその劇場の古い記録を調べた。
すると数十年前の火災事故で劇場内に取り残され、亡くなった客がいたという記述を見つけた。
犠牲者の座っていた席はまさにあの隅の席だった。
以来、Mさんはその席に何かが見えても絶対に声をかけないようにしているという。