知り合いのHさんが、ひとりで山道を歩いていたときのこと。
初夏の頃で木々の緑が生い茂り、風も涼しく歩きやすい日だったという。
彼は普段通らないような細い道を選んで進んでいたが、ふと目を引くものがあった。
木自体はよく見る木なのだが、まるで果実のようなものがぶら下がっていたのだ。
しかしその実には明らかに異常な特徴があった。
普通の木の実は丸くて滑らかだが、その実はまるで人間の顔のような凹凸があり、目や口の部分にしわのようなものが見える。
「何だあれ」
と思いながら近づいてみると、果実はどこか不自然に枝に引っかかっていた。
好奇心が勝り手を伸ばして触れようとしたその時、果実の目と思われる部分がパクッと開いた。
Hさんは驚き後ろに飛び退いた。
すると目が開くと同時に口と思しき部分が裂け、次の瞬間、耳をつんざくような叫び声をあげた。
その音は異常なほど大きく、Hさんは思わず耳を塞ぎ身体を縮こませた。
まるで周囲の空気が震えるかのようだ。
叫び声がしばらく続いた後急に静かになった。
恐る恐る耳を離すと、果実はポトリと落ち転がり始めた。
転がる果実はまるで意思があるかのように、音を立てて草むらの方へと転がり次第に見えなくなっていった。
Hさんはそのまま呆然と立ち尽くし、恐怖と驚きに身体が固まった。
その後、木を調べてみるも果実は一切見当たらず、周囲には何事もなかったかのような静けさが戻っていた。
不気味な出来事に震えながら、Hさんは急いで山を下りることにしたという。