ある池は地元で「夜になると人を引きずり込む」という噂が絶えない場所だった。
昔その池で恋人を待ち続けた女性が命を落とし、その未練が池に染みついているという話だ。
噂によれば夜に池のほとりに立つと水面に女性の姿が映り込むことがあり、彼女はそのまま人を水中に引きずり込むという。
その話に興味を持った大学生のグループが、肝試しのつもりでキャンプ場を訪れた。
夜、誰もいない林を抜け静まり返った池のほとりにたどり着くと、彼らは持ってきた懐中電灯で水面を照らした。
しかし懐中電灯の光と月明かりが反射するだけで、何も異常は見当たらなかった。
「やっぱりただの噂だろう?」
そう笑いながら話していると、水面からかすかな声のような音が聞こえた。
女性のような声で何かを呟いている。
驚いて音の方向を懐中電灯で照らすと、池の中央あたりで微かな波紋が広がり、何かが揺れているように見えた。
一人の学生が声を震わせながら言った。
「何かいる」
その瞬間「ベチャッ」という不気味な音とともに、水面に白い手が浮かび上がった。
手は細く青白く何かを掴もうと動いているようだ。
全員が息を呑む中、突然その手が池の縁に近づき始めた。
「逃げろ!」
誰かが叫び、彼らは一斉にその場を駆け出した。
振り返ることなくキャンプ場まで走り続け、息を切らしながらテントの中に飛び込んだ。
震える手で懐中電灯を消したとき、外から何かを喋っているような音と、ベチャッというかすかな音がまだ聞こえてくるような気がした。