これは友人のKさんから聞いた話だ。
Kさんが車で一人旅を楽しんでいた年末のある日のこと。
深夜1時頃、山奥の峠道を走っていた時、ふと人気のない休憩所が目に留まった。
少し休憩しようと思い、車を停めて外に出たのだという。
休憩所はひっそりとしていて、月明かりが木々の影を地面に映し出していた。
しばらく車のそばで冷たい空気を感じていると、遠くの方で「カツ、カツ」と硬い靴音のような音が聞こえてきた。
辺りを見渡しても誰もいない。
それでも音は確実に近づいてくる。
気味が悪くなり車に戻ろうとした時、休憩所のトイレの方から人影が出てくるのを目にした。
長い髪を垂らした人がこちらを向き、じっと立ち尽くしている。
身につけている衣服は暗いせいか汚れているようにも見える。
Kさんは直感的に「あれは見てはいけない」と思ったが、どうしても目を逸らせなかったそうだ。
するとその人はゆっくりと歩き始めた。
だが妙だったのは、さっきは聞こえていた足音が今は全くしないこと。
次第にその人は道の中央へ進んでいき、ついには宙に浮くようにして消えてしまった。
恐怖に駆られたKさんは急いで車に乗り込んだ。
しかし、エンジンをかけると同時に、助手席側のガラスに何かが「ドン」と叩きつけられる音が響いた。
驚いてそっちに振り向くと、ガラス越しにさっきの人が顔を押し付けてこちらを見ている。
真っ白い肌、ギョロリとした目。
Kさんは慌ててアクセルを踏み込み、その場を全速力で逃げ出した。
振り返る勇気もなく山道をひた走りふもとの街灯が見えた頃、ようやく安心できたそうだ。
以来、Kさんは夜の峠道には近づかないようにしているという。