ネットで知り合ったHさんから聞いた話。
彼が趣味で廃道巡りをしていた時のこと。
場所は某県の山奥。
地元では「崩れ道」と呼ばれ、長年使われていない古い山道だったらしい。
雨上がりの午前中、Hさんはその道を歩き始めた。
苔むした石畳や、ところどころ崩れた土砂が無人の時間の長さを物語っていた。
それでも古地図を頼りに奥へ進むと、かつて村があったと思われる小さな開けた場所にたどり着いた。
昼を過ぎた頃、用事も済んだHさんは帰る事に。
ところが、下山を始めて間もなく背後に何かの気配を感じる。
振り返ると崩れた石垣の上に人影が立っていた。
最初は一人だった。
だが目を凝らすとその人影が二人、三人と増えていく。
よく見るとどの人影も妙に古めかしい着物や、仕事着のような服を着ている。
色はほとんど白黒で、まるで昔の映画の登場人物のようだった。
なんだか怖くなったHさんは、紛らわすために「こんにちは」と声をかけたが返事はない。
ただじっと、全員が無表情のままHさんを見下ろしている。
その数は十、二十と増え続け、ついには石垣の上にびっしりと並んでいた。
言い知れぬ恐怖がこみ上げ、Hさんは走り出した。
重たいリュックを背負ったまま、がむしゃらに山道を下る。
振り返る勇気はなかったが、耳元にかすかなざわめきがついてくるように感じたという。
ようやく山の麓にたどり着いた時、おそるおそる振り返ったが追ってくる気配は消えていた。
結局その日見たものが何だったのか、未だに分からないと言う。