知人のTさんが経験した話。
ある日、Tさんは趣味の登山の途中で、山奥で偶然見つけた廃屋について話してくれた。
古びた木造の家で、瓦は落ち、壁は所々崩れ、長い間放置されていた様子だった。
見た瞬間何か奇妙なものを感じたが、特に気にせずその日はそのまま帰った。
数日後、Tさんはその廃屋について友人たちに話した。
すると「面白そうだから見に行こう」という流れになり、深夜に数人で再び廃屋を訪れることになった。
懐中電灯の明かりを頼りに山道を進み、再びその家にたどり着くと不気味な静けさがある。
「肝試しだと思えば楽しいだろう」と、軽い気持ちで廃屋の中に入ったTさんたち。
内部は荒れ放題で、床はギシギシと音を立て、壁には何かの爪痕のような傷が残っていた。
誰も住んでいないはずなのに何かの気配を感じる。
それでも特に何も起きなかったため「ただの古い家だ」と安心し、外に出ることにした。
ところが、全員が廃屋の外に出た時だった。
屋根の上に視線を感じて見上げると、そこには無表情な顔がいくつも並んでいた。
男も女もいるように見えたが、その目はどれも虚ろで生気が感じられない。
声を上げる者もいたが、誰一人その場で動けなかった。
やがて風が吹き、かすかな囁き声のようなものが聞こえた気がしたが、言葉は不明瞭だった。
すると一人が悲鳴をあげた。
その悲鳴のおかげか全員が一斉に我に返り、廃屋を背にして全力で走り出した。
その後、Tさんたちは無事に山を下りることができたが、あの顔が何だったのか誰にも説明がつかなかった。
事件性や何かの痕跡も見当たらず、ただ「二度とあの場所には近づきたくない」とだけTさんは話していたという。