大晦日の夜、Sさんの家では家族が集まり、こたつに入って年越しそばを食べていた。
外は冷たい風が吹き荒れ、テレビから除夜の鐘の音が流れている。
そんな中、不意に玄関を叩く音がした。
「こんな時間に誰だ?」
と父親が立ち上がる。
時計を見るとすでに日付が変わろうとしていた。
近所の人だろうか、それとも何か緊急事態か。
父親が玄関を開けると、そこには見知らぬ人が立っていた。
古びた着物をまとい、顔は薄暗くてよく見えない。
男とも女ともつかない中性的な声でその人は言った。
「新しい年のご挨拶に参りました」
聞き覚えのない声に家族は顔を見合わせた。
訪問者が立っている姿は不自然なほどじっと動かず、寒さを感じていないように見える。
「どちら様ですか?」
と父親が尋ねるも相手は答えずにただ微笑むだけだった。
仕方なく、「それでは」と言って扉を閉めようとすると、その手がすっと扉に触れた。
「こちらのお宅は、とても良い年を迎えられるでしょう」
その一言を最後に、訪問者は何も言わずに去っていった。
表に出てみると、雪がうっすらと積もった地面に足跡が残っていなかった。