年始の深夜、Sさんは親戚の家での新年会に向かうため車を走らせていた。
田舎道は街灯がまばらで、ほとんどが暗闇に包まれている。
車内にはラジオが微かに流れているが、周囲の静けさを紛らわせるには十分ではなかった。
山間の狭い一本道に差し掛かった頃、Sさんは何気なくバックミラーを見た。
すると遠くにぼんやりと人影のようなものが見えた。
「こんな時間にこんな場所を歩くなんて…」
気のせいだろうと自分に言い聞かせて前方に目を戻したが、しばらくして再びミラーを見ると、影はさっきより近づいている。
街灯を通り過ぎたとき、ぼんやりと浮かび上がった影は人の形をしていた。
しかし、顔や服装の詳細は薄暗がりのせいかはっきりと分からない。
妙な胸騒ぎを覚えたSさんは、アクセルを少し踏み込んで速度を上げた。
すると影も追いかけるように距離を詰めてくる。
車は確かに速く走っているはずなのに、影は歩いているようにも見える。
次の街灯を通過したとき、その影が大きく浮かび上がった。
古びた着物を着ているようだが、その足は地面に触れていない。
Sさんは背中に冷たい汗が流れるのを感じた。
「あれは、人間じゃない…」
怖くなったSさんはさらに速度を上げ、なんとか追いつかれないように必死に運転を続けていると、突然大きなカーブが現れた。
Sさんは急ブレーキを踏んだのだが、車が止まった時に急いで後ろを振り向くと、影がすーっと消えた。
車内には再び静けさが戻り、Sさんは震える手でハンドルを握り直した。
後ろを振り返る勇気はなく、急いで親戚の家に向かった。
家に到着し、その出来事を話すと親戚たちは驚くこともなく言った。
「あの辺りじゃ年始になるとそんな話がよくあるよ。
なんでも山で亡くなった人の魂が迷ってるんだってさ」
Sさんは二度と深夜の田舎道を一人で運転する気にはなれなかったという。