Yさんが大学生の頃の話。
地元に帰省していたある夏の日、友人のKさんと夜の散歩をしていた。
Kさんは昔から好奇心旺盛で、地元の不思議な話を集めるのが趣味だった。
その日も「少し変わった場所に行こう」と言い出した。
連れて行かれたのは山奥にある小さな神社だった。
地元でも人がほとんど訪れない場所場所らしく、荒れた石段を登ると古びた鳥居と小さな拝殿が現れた。
周囲にはひっそりとした雰囲気が漂い、どこか異様な空気を感じた。
Kさんは興味津々に拝殿の周りを見回し「これを見てほしい」とYさんを呼んだ。
彼が指さしたのは拝殿の脇に置かれた黒い石碑だった。
高さは膝くらいで表面はつや消しの黒で覆われている。
文字らしきものが彫られていたが、擦り切れていて読めなかった。
「これ、願い事を書いた小石を石碑の近くに置くと、願い事が叶うって噂なんだ。
でも絶対に書くなっていう変な話もあるんだ」
とKさんは笑った。
軽い気持ちで石碑に触れると、冷たい感触が伝わってきた。
不意に視界が暗くなり足元が揺れた気がした。
慌てて手を離したが、頭の中で誰かが囁いたような気がした。
帰り道、Kさんが突然「何も書くなって言っただろ?」と笑いながら言った。
Yさんは「え?書いてないよ?」と答えたが、その夜から奇妙な夢を見るようになった。
夢の中では、あの石碑に向かって何かを書き続けている自分がいた。
書いている内容は思い出せないが、目が覚めた後はひどく疲れて体が重かった。
Kさんにその事を話してみると「そんな神社知らない」と言われた。
Yさん自身も地元なのにその神社の場所が分からず、どこをどう通ったかも分からなかったそうだ。