Sさんが体験した話。
友人たちと訪れた山間のキャンプ場でのこと。
彼らはキャンプ場から少し離れた森の中を探索していた。
その途中、苔むした倒木の隙間に何かが挟まっているのを見つけた。
それはビニールに包まれた古びた日記だった。
カバーは湿気で傷んでいたが、中のページは意外にもはっきり読める状態だった。
興味を惹かれたSさんたちは、その場でページをめくり始めた。
日記には数年前、この場所でキャンプを楽しんだ人々の記録が残されていた。
最初は笑い声が聞こえてきそうな、楽しげな思い出が綴られていた。
しかしページを進めるにつれ、内容が次第におかしな方向へと変わっていった。
「夜中に妙な声が聞こえた。
低くうめくような声で近づいてくるような気がして、耳を塞いでも止まらなかった」
「森の奥から誰かがこちらを見ている気がする。
影のようなものが木々の間を動き、視線を感じるたびに足がすくんだ」
「友人のMが朝起きたら姿を消していた。
テントの周りには乱れた足跡が残っていて川の方へ続いていたが、そこから先は何も分からなかった」
Sさんたちは次第に無言になり、手が止まることも多くなった。
それでも好奇心に負けて最後まで読み進めた。
終盤の日記には、持ち主が感じた恐怖と混乱が赤裸々に綴られていた。
そして最後のページには、震えるような筆跡でたった一言だけが書かれていた。
「振り返るな」
その瞬間、彼らは背筋が凍りついた。
意味もなく周囲の気配を感じ息を潜める。
振り返りたい衝動に駆られたが、言葉に従って必死に堪えた。
その後、足早にその場を離れたSさんたちは無事キャンプ場へ戻ったが、日記を持ち帰ることはしなかった。
後日、Sさんは調べてみたがその日記についての記録や、そこに記されていた人物がどうなったのか、何一つ分からなかったと言う。