Tさんが体験した話。
友人のKさんと一緒に訪れたのは、山奥にある廃病院だった。
噂好きのKさんが「幽霊が出る」と言われる場所をどうしても見てみたいと言い出し、半ば強引に連れて行かれたのだ。
山奥は夜中という事もあり不気味な程静かだが、Tさんたちは廃病院に入っていく。
朽ち果てた壁、割れた窓ガラス、錆びついた器具が散乱する中、Tさんたちは懐中電灯を頼りに廊下を進んでいった。
数分歩いた頃だろうか。
背後から「コツ…コツ…」という足音が聞こえた。
びっくりして振り返ってみるが誰もいない。
「自分たちの足音が響いてるだけだろ」とKさんが笑うが、Tさんはどこか違和感を覚えた。
自分たちの履いているスニーカーからは、あんな硬い音はしないはずだった。
不安を感じながらもさらに進むと、足音は再び聞こえ始めた。
「コツ…コツ…」
まるで一定の間隔でついてくるようだ。
「もう戻ろう」とTさんが提案した時、Kさんが急に立ち止まった。
「…聞こえるか?笑い声」
耳を澄ますと遠くから微かに「クスクス…」と何かが笑うような音が聞こえる。
冷たい汗が背中を伝った。
二人は一目散に廃病院を飛び出した。
その後、息を整えようと病院の外で振り返った時、Tさんは忘れられない光景を目にした。
割れた窓ガラスの闇の中から、無数の赤い光がこちらをじっと見ていた。
それはまるで目のようだった。
慌ててその場から逃げ出した二人は、もう二度とその病院には近づかなかったという。
後日、その病院について調べてみるとある噂が見つかった。
かつて入院患者たちが院内で謎の死を遂げたというのだ。
そしてその患者たちの病室は、ちょうどTさんたちが足音を聞いた廊下の先にあったらしい。
Tさんはその話をするたび、「あの視線が今でも夢に出てくる」と言うのだった。