Tさんが大学生の頃の話だ。
サークルの友人たちと肝試しに行こうということになり、郊外にある使われなくなったトンネルを訪れた。
地元では「何かがいるトンネル」と噂されている場所だった。
夜の10時過ぎ、トンネルの入口に着くと薄い霧が立ち込め、錆びた標識が幽かに揺れていた。
全員で懐中電灯を片手に、ゆっくりとトンネルの中へ足を踏み入れた。
壁には無数の落書きがあり、湿った空気がまとわりつく。
時折天井から水滴が落ちる音が響き、静けさが一層不気味さを増していた。
しばらく進むと、奥からカラカラと何かが転がるような音が聞こえた。
音のする方向にライトを向けると、錆びた古い缶が転がっているのが見えた。
「誰かいるのか?」
としばらくその方向を見ていたが誰も現れない。
進むべきか引き返すべきか迷っていると、ふいに背後から「寒い…」という囁き声が聞こえた。
振り返ったが誰もおらず、誰だよ脅かすのは?と皆で言い合い、怖さを誤魔化した。
皆で恐る恐る奥へと進むと、トンネルの壁際に奇妙な影が見えた。
人の形をしているようだが全身が異様に黒く、顔の部分がぼんやりと霞んでいた。
友人の一人が「やばい、逃げるぞ!」と叫び、その声を合図に全員が走り出した。
慌てて出口に辿り着き一息ついて振り返ると、影のようなものはもう見えなかった。
だが安堵する間もなく、一人が突然叫んだ。
「おい、お前の肩!」
Tさんの友人の肩に、まるで子供の手形のような汚れがくっきりとついていた。
それに気づいた全員が悲鳴を上げ、友人は慌てて手形を振り払おうとしたが、汚れはなかなか落ちない。
「もう帰ろう!」と誰かが叫び、全員でその場を駆け出した。
ちなみに汚れは水で擦ったら落ちたそうだ。