廃墟巡りを趣味とするMさんは、ある晩、町外れにある古びた日本庭園付きの屋敷を訪れることにした。
長い間手入れされていないその庭園は、噂によれば"不思議な池"があるという。
夜中にその池を覗き込むと、自分ともう一人の人影が映るという話だった。
到着した屋敷は苔むした石灯籠や荒れ果てた植木で覆われ、どこか息苦しい雰囲気を放っていた。
庭園を進むと確かに池があった。
満月の光が揺れる水面を静かに照らしている。
興味津々で懐中電灯を消し、Mさんは池のほとりに腰を下ろした。
水面を覗き込むと自分の顔がくっきりと映り込んでいた。
最初は特に変わったこともなく少し拍子抜けした気分だったが、ふと池の奥にもう一つの顔が浮かび上がった。
長い黒髪に無表情な女性の顔だった。
「えっ?」
驚いて振り返るが背後には誰もいない。
再び水面を見ると、その女性の顔が少しずつこちらに近づいている。
慌てて後ずさりすると池から水音が聞こえた。
何かが水中で動いている気配に、Mさんは全身が強ばった。
さらに怖いことに、その女性の顔がMさんの顔に重なるように見え始めたのだ。
まるで"もう一人の自分"のようだった。
「ここはヤバい」
直感的にそう感じたMさんは、足元のおぼつかないまま庭園を飛び出した。
屋敷の門を抜けたところで、警備員らしき男性に声をかけられる。
「こんな時間に何をしているんだ?」
事情を話すと警備員の表情が曇った。
「その池には近づかないほうがいい。
ここで命を落とした者の魂が、水に映る人影に紛れると聞いている。
見るだけならいいが、決して水面に触れるな」
言葉の意味に震え上がったMさんは、頭を下げてその場を立ち去ったそうだ。