山登りが趣味のIさんと仲間たちは、秋の終わりに山小屋を目指して登山をしていた。
夕暮れ時、目的地の山小屋に到着すると、古びた外観と苔むした壁が印象的だった。
簡単な夕食を済ませたあと、疲れもあって仲間たちは早々に寝袋に潜り込んだ。
Iさんも目を閉じたが小屋の古さゆえか、軋む音や隙間風の音が不気味に響いてくる。
夜半、ふと冷気を感じて目が覚めた。
薄暗い室内に目を慣らしていくと、仲間たちは全員寝静まっている。
だがその中でひとり、窓際に立つ影が見えた。
こんな時間に誰か起きてるのか?と不思議に思ったIさんは、窓際の人物に声をかけた。
「こんばんは、眠れないんですか?」
声に反応するようにその影はゆっくりと動き出した。
ただし普通に振り返るわけではなく、首から下は動かさずに頭だけが静かにIさんのほうへ回転していき、その視線がIさんを見ているようだ。
しばらくするとまた頭が元の位置に回転していき、歩き出す。
まさかこっちへ来るのか!?と思っていると、そのまま出口のドアを開けて外に出ていってしまった。
Iさんは慌てて寝袋の中に潜り込んだ。
「これは夢だ…夢に決まってる!」
と心の中で繰り返し震える体を押さえつける。
しかしそのとき、窓の外から「ない…みつからない…」と何かを探すような声が聞こえてきた。
その音は小屋の周囲をゆっくりと巡るように移動しているようで、最終的には小屋の裏手で止まった。
Iさんは耳を塞ぎ、声が止むまで布団の中でじっとしていた。
朝日が昇る頃になってようやく静かになり、恐る恐る窓際を確認した。
そこには誰もおらず、昨夜の出来事が夢だったようにも思えた。
だが小屋の外に出た仲間のひとりがこう言った。
「小屋の周りから裏手、何かの足跡がたくさんついてるぞ。
誰か深夜に歩いたのか?」
Iさんは何も答えられず、仲間たちもそれ以上その話題に触れることはなかったという。