Mさんと3人の釣り仲間で体験した話。
彼らは週末になると車を走らせ、人気のない山間の沼へ向かうのが恒例になっていた。
その日も夕方から釣りを始め、夜になっても撤収せず焚き火を囲んで酒を飲んでいた。
夜の沼は風もなく、水面はぴたりと静まり返っていた。
そんな中、ふとSさんが「…今、誰か変な声出したか?」と呟いた。
他の三人は顔を見合わせる。
「いや、普通に喋ってたけど?」
「ちょっと皆静かにしてくれ」とSさんが言う。
Mさんたちが耳を澄ますと、沼の奥の方から何かが低くうめくような声が聞こえてきた。
人の声のようだが、意味の分からない言葉を呟いているようでもある。
不気味な声のようなものにTさんが「獣かもしれない」と言って懐中電灯を取り出した。
他の三人もそれに倣い、スマホのライトや懐中電灯を持ち沼の方へ光を向ける。
すると「ばしゃん」と大きな水音がした。
何かが沼で跳ね上がったのだろうか。
全員が息を呑む。
やがて懐中電灯の光に照らされたのは、異様なものだった。
それは人の形をしていたが、体はずぶ濡れでぬめり気のある黒い泥のようなものに覆われていた。
目の部分は暗く落ち窪み、鼻も口もはっきりしない。
それがゆっくりと首を傾けるように動き、じっとこちらを見ていた。
「おい、逃げるぞ!」
Kさんの声で我に返り、四人は一目散に車へと駆け出した。
後ろから「ぬちゃっ、ぬちゃっ」と歩くような音が聞こえてくる。
やがて車にたどり着き、急いで乗るとSさんがエンジンをかけ、慌てて車を発進させる。
するとバックミラーに映った沼のほとりにそれが立っていて、遠ざかる車をじっと見送っていたという。