ある夏の夜、友人と二人で渓流釣りに出かけた。
日が暮れる頃、山奥の川辺にテントを張り、焚き火を囲んで釣果を語り合う。
ひっそりとした森の静けさと、川のせせらぎが心地よかった。
やがて火を落としテントの中の寝袋に潜り込んだ時だった。
「誰か、いますか?」
不意に聞こえたその声に、二人とも目を見開いた。
確かにテントの外から聞こえてくる。
聞き間違いかと思い、しばらく息を潜めていたが、
「誰か、いますか?」
再び同じ声がする。
か細く掠れた声だった。
友人と顔を見合わせ、思い切ってテントの入口を開けた。
ランタンライトの灯りが照らす中、外を見渡しても誰の姿もない。
「誰ですか?」と声をかけても返事はない。
風のせいだろうと無理に納得し、再び横になろうとした。
しかし——。
「誰か、いますか?」
今度はすぐそばから…耳元で囁かれた。
飛び起き、慌ててランタンライトを点ける。
外に出ると、さっきまで穏やかだった川の水面がざわめいていた。
風もないのに波紋が広がり続けている。
恐ろしくなった二人は明け方を待たずにテントをたたみ、その場から移動したそうだ。