Kさんの祖父が若かった頃の話。
彼の故郷では、毎年秋の終わりに「送りの灯」という行事があった。
場所は町外れにある、今は使われていない小さな駅。
古いホームに灯籠を並べ、最後の列車を見送るように火を灯す。
そして夜が更ける前に、それらの灯籠をひとつずつ消していき、駅は再び暗闇に戻るのが習わしだった。
規模は小さいが、町の者にとっては大切な行事であり、準備や片付けも皆で協力して行っていたという。
祖父は毎年のように設営や後片付けを手伝っていた。
しかし、いつも不思議に思うことがあったらしい。
行事が終わり、最後の灯籠を消した後、皆で後片付けをして帰る。
しかし翌朝になると、なぜか駅のホームには奇妙な痕跡が残っているのだ。
誰も歩いていないはずの場所に、濡れた靴の足跡がいくつも続いていた。
線路沿いには、焦げた紙のようなものが落ちている。
何かを燃やしたような跡もあったが、その夜に火を使ったのは灯籠だけのはずだった。
不思議に思った祖父はある年、翌朝まだ暗いうちに駅へ向かった。
霧がかかるホームに立ち、線路の先をじっと見ていると——
遠くでかすかに電車の走る音が聞こえた。
この駅はもう使われていない。
列車が来るはずはなかった。
祖父はしばらく立ち尽くし、何も見えない線路を眺めたあとそっと町へ戻ったという。