大学時代の友人たちと、山奥の小屋に泊まった時のことだった。
その小屋は登山客向けに使われる簡素な造りで、水道や電気は通っていたが、周囲には他の建物はなく、夜になると街灯の明かりすら届かない。
食事を済ませた後、俺たちはランタンの灯りを頼りにトランプをして過ごし、夜が更けるとそれぞれ寝袋に潜り込んだ。
どれくらい眠っただろうか。
ふと目を覚ますと、ザッ…ザッ… と、誰かが小屋の周りを歩いている音が聞こえた。
「…誰か起きてるのか?」
ぼんやりした頭で呟くが返事はない。
同じ部屋で寝ている友人たちを見ると、全員寝息を立てている。
じゃあ誰の足音だ?
寒気が背筋を駆け上がる。
音はゆっくりとした速度で、小屋を回り込むように移動している。
野生動物かもしれないと考え、そっと布団をめくって起き上がる。
だがすぐに動くのを止めた。
窓の外、闇の中に何かが立っているのが見えたからだ。
はっきりとは分からない。
人のようにも見えるし、ただの木の影かもしれない。
でも直感で「見てはいけない」と思った。
俺は布団に潜り息を殺す。
すると――
カリ…カリ…
何かがドアを引っ掻く音がした。
鍵は閉めてあるが、ドアノブを回そうとするかのように、ガチャッ、ガチャッ と音が響く。
友人たちは誰も起きない。
心臓の音がうるさいほど鳴っていた。
どのくらい続いただろうか。
気が付けば音は止んでいた。
恐る恐る布団から顔を出し、時計を見ると朝の5時を回っている。
もう外は薄明るい。
静かになったことを確認し、意を決して戸を開けた。
――そこには、何の痕跡もなかった。