Kさんが体験した話。
短期の仕事で地方都市に滞在することになったKさんは、駅から少し離れた場所にあるマンスリーマンションを借りた。
間取りは1K。
家具つきで、すぐに生活が始められる手軽さが気に入ったという。
初日から特に不便はなかったが、夜になると部屋のどこかで引き戸が開くような音がすることに気づいた。
スー…と、空気を切るようなその音は、毎晩0時を過ぎた頃に決まって聞こえる。
だが部屋に引き戸はクローゼットしかない。
不思議に思いながらも、Kさんは気にしないふりをして過ごしていた。
数日が過ぎたある夜、音の正体が気になったKさんは、寝る前にクローゼットの中を調べてみることにした。
中は特に変わった様子はない…と思いきや、ふと壁の一部にうっすらと隙間があるのに気づいた。
試しにその隙間を押してみると――ゴトン、と鈍い音と共に壁がわずかにずれた。
なんとか力を込めて押し広げると、その先にはもう一部屋が現れたのだ。
埃っぽく薄暗いその空間には畳が敷かれ、隅には布団が畳まれたまま置かれていた。
だが、布団には明らかに“誰かが寝ていた”跡があった。
真ん中が沈み、枕の形にもまだ凹みが残っていた。
その瞬間、Kさんの背筋に冷たいものが走った。
慌てて壁を閉じ、クローゼットの扉を強く閉めたという。
その夜は眠れなかった。
翌朝、大家にそれとなく話を向けてみたが「あの部屋にそんな造りがあるとは知らなかった」と言うばかりだった。
Kさんは予定を繰り上げて、すぐにその部屋を引き払ったという。
「毎晩聞こえてた開く音、たぶん…あの部屋のだったんだと思う」
そう最後に呟いていた。