ネットで知り合ったIさんから聞いた話。
Iさんが泊まったのは山の中腹にあるロッジだった。
スキー客や登山者がよく利用する場所で、年季は入っていたが掃除は行き届いていて、清潔な印象だったという。
そのロッジには宿泊者用の共同浴場があり、脱衣所には古い木製ロッカーが並んでいた。
その中にひとつだけ白く塗られたロッカーがあった。
他と違って色褪せており、扉には紙が貼られていた。
「使用禁止」
鍵は壊れていて開け閉めしてはいけないようだったが、見たところ普通に使えそうだったという。
ただその白いロッカーだけは他のロッカーと少し違う…そんな違和感をIさんは確かに感じていた。
問題が起きたのは深夜のこと。
浴場は夜でも使えるが、もう誰もいない時間帯だった。
Iさんは軽く汗を流そうと、浴室に向かったのだという。
脱衣所に入った瞬間――
「ガタンッ…ギィッ」
乾いた金属音が脱衣所に響いた。
音の方を見ると白いロッカーの扉が、わずかに開いていた。
誰かが開けた?それとも風?…そう思った瞬間。
「ひっ…く…くっ…」
濡れたような声がロッカーの中から漏れた。
誰かが泣いていた。女の声だった。
すすり泣きは短く、そして突然ピタリと止まった。
Iさんは慌てて浴室から逃げ出した。
一晩中、部屋の布団の中で震えていたという。
翌朝、ロッカーのことが気になり勇気を出して見に行った。
人の気配はなく、白いロッカーは昨夜と同じように少しだけ扉が開いていた。
恐る恐る近づき中を覗いた。
ただの空のロッカーか…と思ったそのとき。
扉の隙間に何かが引っかかっていた。
黒い髪の毛が数本――それも乾燥して艶を失った毛束が挟まっていた。
そのロッジでは、数年前に客が浴室で亡くなっていたという話を、後から人づてに聞いたという。
だが詳しい話は誰も語りたがらなかったそうだ。