Sさんから聞いた話。
Sさんが通っていた中学校には、すでに使われていない旧校舎があった。
今では扉も錆びつき、廊下にはホコリが積もっている。
けれど文化祭の準備期間中だけは、道具置き場として一部の教室が解放されることがある。
その年の文化祭前、Sさんたちのクラスも旧校舎の教室を一時的に使うことになった。
掃除と荷運びのため、何人かの生徒が旧校舎へ行くことになり、Sさんもそのうちの一人だった。
古い廊下に足を踏み入れた瞬間から、空気の重たさを感じたという。
窓から差し込む夕陽の赤が、廊下をぼんやりと染めていた。
──その日は特に何事もなかった。
けれど翌日の放課後。
忘れ物を取りにSさんは、一人で再び旧校舎へ向かうことになった。
もう使用は終わっており、扉にはしっかりと鍵がかけられていた。
だが――そのときだった。
「…カチャ…カチャカチャ…」
誰もいないはずの校舎の中から、微かな鍵の音が聞こえてきた。
最初は風の音かと思ったが、はっきりとした金属音だった。
耳を澄ませばそれは廊下の奥から次々と響いてくる。
「カチャ…カチャ…ガチャッ」
扉の閉まったはずの教室のドアが、一つずつ開いていく音。
それはまるで誰かが順に鍵を開け、自分の方へ近づいてきているかのようだった。
ぞわりと背筋を寒気が走った。
次の瞬間――
「ガチャッ!」
自分のすぐ近くのドアが開いた。
その瞬間、Sさんは反射的に走って逃げ出した。
しかし背後でガラガラっと開く音。
続いて足音と、追ってくる何かの存在を確かに感じた。
下駄箱近くに来たとき「ドコイクノ」と背後で低くくぐもった声がした。
そして「ガシッ」と何かに肩を掴まれた。
咄嗟に振り払って走り、下駄箱の出口から外へ逃げ出したSさんは、その足で職員室に駆け込んだ。
だが先生が確認に行ったときには、旧校舎には鍵がかかっており、誰の気配もなかったという。
あのとき、自分が掴まれた感触は今でも肩に残っているそうだ。