会社員のKさんは、都内の築三十年近い古いマンションに引っ越してきたばかりだった。
家賃は安く駅からも近い。
設備は年季が入っていたが、広さのわりに格安だった。
最初の一週間は何の問題もなかった。
だが、それはアラームが鳴った日から始まった。
その日、Kさんは寝不足だった。
ベッドに倒れこむようにして眠ったのに、突然、けたたましいアラーム音で目が覚めた。
「…うるさい…なんだよ…」
時計を見ると、「午前4時44分」。
だがKさんは、その時間に目覚ましを設定した覚えがない。
スマホのアラームは鳴っていない。
だというのに、ベッド脇のアナログ時計が鳴っている。
不思議に思いながらもアラームを止め、再び眠りについた。
しかしその翌日も、また翌々日も決まって午前4時44分に目が覚める。
しかもその時間になると、部屋の空気がやたらと重くなる。
布団の中にいるのに妙に背中が冷える。
何かが自分を上から覗き込んでいるような気配すらある。
気味が悪くなったKさんは、ついに時計を処分した。
それでも4時44分に目が覚める現象は続いた。
ある日、Kさんは目を覚ました後、どうしても見られている気配の正体を確かめたくなった。
部屋の電気をつけカーテンを開け、鏡を確認しクローゼットの中まで調べた。
けれど何も見つからない。
ただ部屋の壁の一部、ベッドの枕元の横に小さな丸い跡を2つ見つけた。
壁紙が僅かに盛り上がっており、よく見ると人の目のような大きさに見える。
まるでその裏から「誰か」がこちらを覗いていたかのように━━。
ぞっとしたKさんは、翌日管理会社に連絡を入れた。
内装業者を呼んで壁を剥がしてもらったが、中から出てきたのは断熱材と古びた配線だけ。
「よくある結露の跡ですよ」
そう言われてしまい、結局は取り合ってもらえなかった。
だがその夜、Kさんが眠っていると再びアラームが鳴った。
もう捨てたはずの、あのアナログ時計の音。
「おかしい、ないはずなのに…」
目を開けた瞬間、部屋の照明がつき、壁に浮かび上がった黒い影と目が合った。
枕の横にあるあの跡からじっと見ていた。
それからKさんは引っ越したが、どこに住んでも必ず午前4時44分になると目が覚めるようになってしまった。
そして最近では鏡の中にも、それが映るようになってきたという。