これはRさんが昔、古道具屋で働いていた時のこと。
遺品整理の依頼で引き取った荷物の中に、木枠が黒ずんだ古い額縁があった。
中の写真はすでに抜かれており、ガラスと台紙だけが残っている。
湿気を含んだような匂いが微かに漂っていたが、Rさんはそれを丁寧に拭き取り、他の額縁と一緒に棚へ並べた。
ところが数日後、その額縁に異変が起きた。
他の作業をしていた同僚が、「あれ、今、人の顔が…」と額縁を見て顔をしかめる。
Rさんが確認すると、確かにうっすらと、まるでガラスに写ったかのように顔が浮かんでいた。
黒髪の女性が、どこか寂しげに目だけをこちらに向けている。
反射や映り込みでは説明のつかない位置と角度だった。
気味が悪くなり、Rさんは額縁を店の奥にある倉庫へ移した。
それでも数日経つと、また別の顔が映っていたという報告が届いた。
今度は老人のような顔で、口元が黒く、まるで煤で塗りつぶされたような輪郭をしていたという。
その週の土曜、ふと自室の机の上に見覚えのある額縁が置かれていた。
もちろん店から持ち帰った覚えはない。
触ってみると冷たく、ガラスの内側に何かが曇ったように残っていた。
指で拭いてみるとそれは顔だった。
額縁のガラス越しにこちらを見ている、初老の男性の顔。
慌てて額縁を紙で包み、次の日に店に持っていった。
その後、何者かがネットショップにその額縁を出品し、すぐに購入された。
誰が出品したのかは不明。
ログにも履歴が残っていなかった。
他の店員に聞いても分からないという。
「幽霊に売られたのかも」とRさんは苦笑いしていた。
後日、店のネットショップのレビューに、こんなコメントが投稿された。
「この額縁、何も入れていないのに、ガラスに時々顔が出てきます。
どういう仕掛けですか?」
返答をしようとしたが、すでにその投稿者のアカウントは削除されており、連絡も取れなくなっていた。