これは会社員のMさんが実際に体験したという話。
その日Mさんは仕事からの帰宅中、スマホに「留守番電話が1件」と表示されていることに気づいた。
発信元は非通知。
だが内容を確認してみると──自分の声だった。
『…オレだけど…たぶん、大丈夫、もうすぐ帰る』
声は確かにMさんの声。
けれど、どこかおかしい。
抑揚が不自然で、単語の区切り方が微妙にズレている。
第一、こんなメッセージを残した記憶はまったくなかった。
「寝ぼけてかけた…わけないよな…」
少し気味が悪かったが疲れていたこともあり、帰宅後はそのままベッドに倒れ込むように眠った。
だが、それは一度きりではなかった。
翌日もまた非通知からの留守番電話が入っていた。
今度の声はさらに妙だった。
『…もうすぐ、行く…オマエのところ…聞こえる、か…』
声はMさん自身のようでいて、時折濁ったような音が混じる。
機械音声とも、声真似とも違う、どこか壊れた録音のような気持ち悪さがあった。
念のためその音声を残しておいて、友人のHさんに聞かせてみた。
Hさんは首をかしげながら言った。
「…たしかにMの声だけど、言ってること変だし…これ、お前が自分で話してるようには聞こえないな。
なんか…喉の奥から無理やり真似してるみたいな…」
その日の夜。
Mさんは録音された音声を何度も再生して確認していた。
するとふいに
「…これ、オレじゃない」
そう呟いた瞬間だった。
奥の寝室の方から、微かに、まったく同じ声で、
『…これ、オレじゃない…』
と聞こえた。
Mさんはゾッとした。部屋には誰もいないはず。
留守電の再生は止まっていた。
声は部屋の奥、暗い寝室の方から、まるで真似をするように聞こえてきたのだ。
恐る恐る寝室のドアに近づこうとした時、スマホが震えた。
また非通知からの着信。
通話ボタンを押すのをためらっていると、勝手に応答になった。
『…オレは、そっちじゃない。
オマエが、こっちなんだよ…』
耳に押し寄せるような歪んだ声。
その瞬間、寝室のドアが「コン」と音を立てた。
怖くなったMさんはそのまま部屋を飛び出し、友人の家に泊めてもらうことにした。
その後、部屋に戻ると何も変わった様子はなかった。
だが、スマホの留守番電話には、例の声が今も不定期に残される。
『…こっちに、いる…まだ、待ってる…』
自分の声で、自分ではない何かがまるで入れ替わりを望むように。
Mさんはそれ以来、電話の留守録機能を切ったままだという。