怖い話と怪談の処

ブログ名の最後の文字は(ところ)と読みます。怖い話や不思議な話が大好きな方、是非ご堪能下さい。記事への★ありがとうございます。

赤い畳の部屋

これは大学時代に肝試しに行ったという、Tさんから聞いた話。

 

Tさんたちは友人6人のグループで、とある山奥の古民家を訪れた。

すでに人が住まなくなって久しく、屋根の一部も抜けかけていたが、知り合いの親戚の持ち物で取り壊しが決まっていたため、一晩だけならと泊まる許可をもらったのだという。

 

古民家には全部で五つの部屋があった。

そのうちの一つ、一番奥の部屋だけが他と明らかに違っていた。

畳が真っ赤だった。

ワインでもこぼしたような、けれどもっと暗くて鈍く光るような色。

畳の縁も染まっており、どこを触ってもその色は抜けなかった。

まるで、長い年月をかけて染みついた何かの跡のように見えた。

 

同行していたTさんの友人の一人、Kさんは興味を持ってその部屋の前に立った。

「ここ何かあるんじゃない?」

しかし、そのとき一緒にいた地元の案内役の女性が、低い声で言った。

「そこは入っちゃいけないよ。特に夜には絶対に近寄らないで」

理由を聞いても彼女は首を振るだけだった。

それでもグループの中でやんちゃ気味だったNさんは、夜中になって皆が寝静まった頃、ふらっとその部屋に向かってしまった。

 

ドアを開ける音に気づいたTさんが目を覚まし、起き上がったときにはすでにNさんの姿はなかった。

「おい、やめとけって!」

廊下を行くと赤い畳の部屋の戸が少し開いていた。

しかし中を覗くとNさんの姿はなかった。

部屋はしんと静まり返っていた。

畳の真ん中にはNさんの寝袋だけが、ぽつんと置かれていた。

彼を呼ぶ声は、夜の闇に吸い込まれるように消えていった。

 

翌朝みんなで探し回ったが、Nさんの姿はどこにもなかった。

その赤い畳の部屋には、あの寝袋だけが前日と同じ位置で残っていた。

警察も呼び地元の人たちにも話を聞いたが、誰もがあの部屋には触れようとしなかった。

「何十年も前に、あの部屋で何かがあって、それからずっとそうなってるらしい」

と、誰かがぽつりとつぶやいた。

 

その後、Nさんは見つからなかった。

取り壊しが予定されていた古民家は、事情により解体が先送りされ、今でもそのまま山の中に残っているという。

赤い畳の部屋もきっとそのままだ。

 

Tさんは最後にこう語っていた。

「きっとNは今でもあそこにいるんじゃないかな。

時々さ、夢の中であの赤い畳の部屋を見るんだよ。

俺の寝袋の隣に誰かが立ってるのを…」