Mさんが体験した話。
それは大学時代の夏休みのこと。
地元に戻ってきたMさんは中学時代の友人たちと集まり、夜にある場所へ向かった。
行き先は彼らが通っていた中学校。
数年前に統合で廃校になり、今は雑草と落書きに覆われた無人の建物だった。
「懐かしいな」「ここ、職員室だったよな」そんな話をしながら、懐中電灯を片手に進んでいく。
床は埃にまみれ、掲示板の紙は茶色く変色している。
最初は肝試し気分だった。
だが2階の廊下にさしかかったとき、Mさんはふと気がついた。
友人たちがいない。
声も足音も聞こえない。
途中の教室とかを見回っているんだろうか?と階段を引き返しても誰もいない。
焦りながらも、Mさんは友人を呼びながら懐中電灯を頼りに歩き続けた。
ひたすら暗い廊下の先、不意に灯りが漏れている部屋を見つけた。
保健室だった。
Mさんは一瞬友人がいるに違いないと思ったのだが、おかしな事に気がついた。
廃校になってから電気などきているはずがない。
けれど確かにドアの隙間から柔らかな白い光が漏れている。
戸惑いながらもドアをそっと押すと、鍵はかかっていなかった。
━━ギィ…
スライドドアがゆっくりと開いたその中は、まるで時間が止まったようだった。
壁は白く、棚の薬瓶も整然と並んでいる。
何より部屋の中央に真っ白なベッドが2台、綺麗に並んでいた。
そのベッドのひとつがへこんでいた。
重さがかかって沈んでいるように見える。だがそこには誰もいない。
Mさんは一歩だけ足を踏み入れた。
すると「カシャン」と音がして、棚の奥の薬瓶が一つ落ちた。
驚いてそちらを見る。
誰もいない。
振り返ると開けたはずのドアが、いつの間にか閉まっていた。
友人がいたずらして閉めたのかと思い、ドアに近寄って動かしてみた。
だが、動かそうとしてもびくともしない。
すると背後で「ギシ…」と軋む音がした。
びっくりしてベッドの方を見ると、沈んでいたベッドがさらに沈んでいた。
「開けてくれっ!」
Mさんはドアを叩いた。
だがいくら叩いても、布団を叩いてるかのように音がしない。
何度も叩いていると
「…うるさい、静かにして」
背後から女の子の声がした。
Mさんは反射的に振り返った。
ベッドには誰かが確かに横たわっていた。
髪の長い女の子のようだったが、顔は髪に隠れてるのか暗くて見えない。
「出ていって」
そう聞こえた次の瞬間。
Mさんは廊下に立っていた。
ドアは閉まっていて灯りも消えている。
だがMさんのポケットには、保健室の薬棚にあったはずの小瓶がひとつ入っていた。
見覚えのない小瓶には古びたラベルが貼られており、震えるような字でこう書かれていた。
「安静ニ、横タワルコト」
その文字を見た瞬間、Mさんは思わず悲鳴を上げ、小瓶を床に放り投げて走り出した。
ひたすら廊下を駆け抜け、階段を下り、正面玄関の下駄箱前まで戻ったところで━━友人たちがいた。
「どこ行ってたんだよ!」
「お前だけいなくなって、マジで焦ったんだからな」
皆Mさんが消えていたことを不思議がっている。
Mさんは荒い息を整えながら、さっきまでの出来事を語った。
保健室の灯り、誰かが寝ていたベッド、そして聞こえた声のことも。
「面白そうだ、ちょっと行ってみようぜ」
興奮気味に向かう友人たちとは違い、Mさん恐る恐る戻った。
保健室にたどり着き友人たちが窓から覗くと、そこにあったのは埃をかぶった棚と段ボールだけの空き部屋だった。
あの白いベッドも、棚の薬瓶ももうどこにもなかった。
Mさんが放り投げたという小瓶も探してみたのだが、どこを探しても見つからなかったそうだ。