Mさんたちが大学のゼミ仲間と訪れたキャンプ場は、県境の森の中にあった。
宿泊は古びたバンガローだったが、簡易シャワーや炊事場もあり、学生たちには十分だったという。
夜になってバンガローの横で焚き火を囲んだ。
火を見ながら語る他愛ない話や、持ち寄ったギター、マシュマロ焼き体験。
そうした時間が過ぎる中、Nさんがスマホで焚き火を連写しはじめた。
「スロー動画っぽく編集したいんだよ」
と言いながら、何十枚も角度を変えて撮っていた。
その場では特に何も起きず、皆、焚き火を見つめながら眠たくなり、それぞれバンガローへ戻っていった。
異変に気づいたのは翌朝のことだった。
朝食の後、昨夜の写真を確認していたNさんが急に黙り込み、そのままスマホを固く握りしめた。
「これ、見てくれない?」
そう言って差し出された画面には、昨夜撮った連写の一枚が映っていた。
焚き火の奥、真っ暗な木立の手前に、人影のような黒いものが立っていた。
誰かのいたずらかとも思ったが、写っているのは人というには不自然だった。
輪郭は曖昧で、手や顔があるようでない。
次の一枚、さらにその次の一枚。
その黒い影は少しずつ焚き火に近づいていた。
周囲にはMさんたちが写っているが、誰も異変に気づいている様子はない。
むしろ、影はまっすぐ火を目指して歩いているようだった。
数枚飛ばして最後の一枚を見たとき、全員が息を呑んだ。
影が火の中に立っていた。
燃え盛る炎に包まれながらも、影の形は崩れず、頭からつま先までまっすぐに立っている。
まるで火の方から、その影が浮かび上がったかのようだった。
スマホで確認した時点ではそれだけだった。
ただその夜、再び焚き火を囲んでいた時、誰ともなく言い出した。
「誰か、さっきからあの向こうに立ってない?」
火の奥、バンガローと林の境界に何かの気配だけが残っていた。
光の加減、焚き火の影。
そういうことで片づけようとした者もいたが、Kさんがつぶやいた。
「昨日の写真、もう一度見てみ?」
Nさんが再生した連写には、誰もいなかった最初の数枚にも、気づけば微かにそれが写っていた。
Mさんは言う。
「あれは、火の中に入ったんじゃなくて…火から出てきたんじゃないかって思うんだ」
その影がどこから来たのか。
なぜ焚き火を目指したのか。
答えはないままだが、あの夜を境にキャンプ場の焚き火台のまわりでは、火が妙に湿った音を立てて燃えるようになったという。