
Tさんから聞いた話。
大学の休暇を利用して、朝早くに登山に出かけたTさんたち四人のグループ。
地図とコンパスを頼りに整備された登山道を歩いていたが、途中で道を一つ間違えた。
スマホの電波は既に届かず、地図にも載っていない小道に入り込んでしまったことに気づいた時には、もう引き返すタイミングを逸していた。
獣道のようなその細道を進むしかなく、全員で手で草をかき分けながら、なんとか先へ進んだ。
不意に前を歩いていたRさんが立ち止まった。
木々の間から覗くように、苔むした鳥居がぽつんと建っていたのだ。
しかも、くぐった先には崩れかけた祠があり、屋根は半ば落ち、黒ずんだ木材が乾いた音を立てていた。
「やっば、こういうのマジであるんだ…」
Kさんがスマホを構えようとしたが、画面はなぜか真っ暗のまま。
カメラも動かなかった。
Rさんが面白がって祠の中を覗き込んだ。
「なにかいる~?」
とYさんが茶化すも、Rさんは何も言わない。
沈黙のまま数歩下がってきた彼は、それきり口を閉ざした。
その顔からは、さっきまでの興味本位な色がすっかり消えていた。
帰り道の相談をしても、さっきの祠の事で冗談を言っても、ただ黙って虚空を見つめているだけ。
冗談にしては空気が悪すぎた。
気味悪さと不安が全員の胸に重くのしかかる中、一行は無言で山を下りた。
なんとか山小屋に着き、荷物を下ろした頃だった。
薪ストーブの傍で毛布にくるまっていたRさんが、ぽつりと呟いた。
「あの鳥居、奥にもまだ何本もあった…」
焚き火のパチパチという音に混じるようなか細い声だった。
「みんな、見てないの?」
そう言って、Rさんはゆっくりとこちらを振り返った。
彼の瞳はうつろで、何か遠くを見るように焦点が合っていなかった。
Tさんたちは顔を見合わせた。
誰も奥にあるという鳥居見ていない。
祠の奥には、木立と苔むした岩しかなかったはずだ。
「見てないよな?」とKさんが確認するように言うと、Yさんも見ていないと頷いた。
Rさんだけが確かにそれを見たという。
そしてその夜、Rさんは山小屋の布団の中からいなくなっていた。
荷物も靴も置いたまま。
誰も彼が出て行くところや、音など聞かなかった。
その後捜索されたのだが、彼が見つかったのは数日後、山の麓に立っていたのを発見されたという。
Rさんに詳細を聞いたのだがボーっとしており、ただ一言
「楽しかったなぁ…」
と言っただけだったという。