深夜一時過ぎ。
駅前のコンビニでバイトを終えたTさんは、気まぐれに駅の裏手に回ってみた。
人通りのないその裏路地は街灯も少なく暗い。
ふと視線を落とすと、路面の隙間に古びた階段が口を開けている。
「こんなのあったか?」何度か通った道のはずなのに、これまで目に入ったことは一度もなかった。
吸い寄せられるように階段を下りると、そこには厚い鉄の扉がある。
錆びついているが鍵は掛かっておらず、押すと軋みながら開く。
中には蛍光灯が数本だけ点いていて、どこからともなく風が吹いていた。
風は生暖かく湿気を帯びている。
興味に背中を押され、Tさんはゆっくりと進んでいく。
細長い通路は軽く傾斜していて下りになっていた。
左右に古い案内板の跡があるが、どれも文字が擦れて読めない。
コツ、コツ、と足音が反響するなか、不意に風の音に混じって人の声のようなものが聞こえてきた。
男女の区別もつかないボソボソとした声。
思わず立ち止まって辺りを見回すが誰いない。
スマホのライトで照らすと、壁にはなぜか無数の爪の跡のような傷がついていた。
怖くなって戻ろうと振り返り、進んできた道を戻っていったのだが、入口だったはずの鉄扉が消えていた。
そこにはただのコンクリートの壁しかなく、Tさんは驚き焦った。
「おかしい。来た道を戻ってきたはず」
再び進むしかなく、歩いていくと十字路のように分かれ道が現れた。
その中心に、赤黒く染みのついた看板が立っていた。
『この先、通行禁止』
その下に、何か字が書かれれているが読めない。
悩んでいた時、風が一層強く吹き抜け、前方の薄暗闇に何ががいるのが見えた。
スマホのライトを向けてよく見ると、白い服を着た人たちが左右にゆらゆらしながら歩いてきている。
顔はよく見えない。
だがこちらに向かって何かを言っているようだ。
「やばい!」
Tさんは走り出した。
道を選ばず風が吹く逆を進むと、やがて視界の先にぼんやりと明かりが見えてきた。
さっきの鉄扉だ。
元の場所かはわからないが、迷わず飛び出す。
息を荒げて振り返ると、扉の向こうはもう真っ暗だった。
何も見えない。風も止んでいた。
数日後、あの道を確かめに戻ったが、あの階段は見つからなかった。
地元の知り合いに聞いても「そんな裏口なんて見た事ない」と言われた。