Yさんが参加したのは、大手企業の新入社員研修だった。
場所は山奥にある古びた研修施設。
3泊4日で泊まり込み、朝から晩まで座学と体験研修を受けるという、少し厳しい内容だった。
建物は清掃が行き届いており、ぱっと見は清潔だったが、どこか湿気を含んだ匂いと、長い廊下の奥にある暗がりが不気味に感じられた。
初日の夜、Yさんは寝る前にトイレ行き、戻って来る途中の事。
廊下の奥の方から「ぺたっ、ぺたっ、ぺたっ」と裸足のような足音が聞こえてきた。
同期の誰か走って来てるのかと思いそのまま進む。
音はすぐそこで聞こえてきたのに姿が見えない…やがて音は通り過ぎ、Yさんの後に遠ざかっていった。
Yさんは怖くなって急いで部屋に戻り、布団をかぶって眠った。
翌朝、その話をすると他の数人も「聞こえた」と言い出した。
「夜中に足音がした」
「女性の笑い声みたいなのも…」
この山の研修施設には男の社員しかきていない。
話はどんどん広がっていったが、講師に相談すると
「気のせいだよ、初日で緊張してたからそういう風に聞こえたんだよ」
と軽く流されてしまった。
二日目も夜遅くになるとまた足音が聞こえた。
三日目の深夜、Yさんは騒がしい音で目を覚ました。
扉のすぐ外から「ドン、ドン」と何かがぶつかるような音がしていた。
それに混じって、女性の声のようなものも聞こえてくる。
「アケテ、デテキテ」そんな風に聞こえた気もしたが、布団から出ることはできなかった。
そして翌朝、参加者の一人、Nさんが姿を消していた。
全員で探したが見つからず、ついには警察が呼ばれた。
それでも、Nさんは最後まで見つからなかった。
彼の寝ていた布団の周りだけ、まるでNさんを囲むかのように、土のような汚れと足跡が付いていたという。
しかも布団の脇から窓の方へ続いていた。
研修を終えて会社に戻った後、Yさんは先輩社員から喋りかけられた。
「あの山、山の奥から何かが降りてくるんだそうだ。
声を聞いたって人の話によると、女性のような声だったそうだ」
Yさんは思い出した。
あの夜、扉の外から聞こえた声。
確かに女性のような声だった。