Rさんが、友人のYさんとNさんと体験した話。
彼らはどこにでもいる普通の大学生で、その日はちょっとしたスリルを求めていた。
夜の22時過ぎ、Yさんの運転する車で、とある県の山奥にある心霊スポットとして有名な森へと向かっていた。
「まじかよ、こんなとこに本当にあんのか?」
Nさんがスマホのマップと窓の外を交互に確認しながら、少し不安そうに呟いた。
車は舗装路を外れ、ガタガタと揺れる砂利道を進んでいく。
ヘッドライトが照らす先は、うっそうとした木々が連なる暗闇で道の先がよく見えない。
「大丈夫だって!ネットに載ってたんだから間違いないよ」
Rさんは少し強がりながらも、内心ではひやりとしていた。
それでもこうして友人たちと、非日常を味わうのは悪くない気分だった。
しばらく走ると、道の脇に車を停めるにはちょうどいい開けた場所があった。
そこは周りを大木に囲まれ、ところどころに石が転がっている。
「よし、ここにしよっか」
Rさんがそう言うと、Yさんが車のトランクからランタンライトを取り出した。
真ん中の石の上にランタンを置き、3人は適当な大きさの石や丸太を持ってきて、それを囲むように座った。
夜の山は車のエンジンを切ると信じられないくらい静かで、虫の声だけが微かに聞こえる。
「じゃあ、順番に怖い話でもするか」
Rさんがそう提案した。
しかし、そうそうリアルな怖い話など持っているはずもない。
結局それぞれがスマホを取り出し、怖い話まとめサイトを見ながら、適当に話を作り始めた。
最初に話し出したのはYさんだった。
スマホの画面を凝視しながら、抑揚をつけて語る。
「ある日、男が一人で山奥を歩いてたら…」
順番にそれぞれが語っているその時
「ガサ…ガササ…」
Nさんのすぐ後ろの茂みから、何かを掻き分けるような音が聞こえた。
3人の視線が一斉に音のした方へ向かう。
真っ暗闇で何も見えない。
「なんだ?動物か?」
Nさんが小声で言った。音はしばらく止まり静かになった。
「気のせいだって。山だしなんかいるだろ」
Rさんがそう言って再びスマホに目を落とした。
少しだけ緊張が走ったものの、結局何も起こらなかったので、3人はまた怖い話を再開した。
Rさんが話し始める。
「女の人が夜中に一人でアパートに帰ってきて…」
と語りだしたその時、再び「ガサ…ガササ…」という音が、さっきよりもはっきりと、そして明らかに彼らのいる場所の近くから聞こえた。
同時に土を踏みしめるような微かな音も混じっている。
「おい、マジでなんかいるって…」
Nさんの声が震えている。
Yさんはランタンの光を音のする方向に向けようとしたが、怖くて手が動かない。
「ヒュー…ヒュー…」
今度はまるで誰かが喉を鳴らすような、不気味な音が聞こえてきた。
それは動物の息遣いとは違う、人間のようなそれでいて人間ではないような、奇妙な音だった。
闇の奥から、それがゆっくりと近づいてきているのが分かる。
3人がじっと見つめていると、真っ暗な木々の間に小さく赤い光が揺らめいた。
まるで遠くで焚き火をしているかのような、でもそれにしては妙に低い位置で、チロチロと揺れる炎のような光だ。
「なんだあれ」
Yさんがやっと声を出した。
光は一つだけではなかった。
二つ、三つと不規則に、そして確実に彼らに向かって近づいてくる。
揺らめく赤い光が闇の中で、まるで誰かの目が輝いているかのように見えた。
「うぅぅぅぅ…」
今度ははっきりと「うめき声」が聞こえた。
それは苦痛に満ちた声のようでもあり、何かを訴えかけるようでもあった。
その声が聞こえた瞬間、赤い光が目の前で一瞬、大きく燃え上がったように見えた。
「うわぁああああ!」
Rさんが叫んだ。
YさんもNさんも、ほぼ同時に絶叫していた。
彼らはもう怖い話をしているどころではなかった。
ランタンを引っ掴み、来た道を一目散に走り出した。
木々の間を足元もろくに確認せず、ただひたすら車のある方向へ向かって駆け抜ける。
背後からは、あの「ヒュー、ヒュー」という音と、「うぅぅぅぅ」といううめき声が、追いかけるように聞こえてくる気がした。
車に飛び込みドアを閉め、Yさんは震える手でエンジンをかけた。
タイヤが砂利を蹴散らし、彼らは振り返ることなく森を後にした。
Rさんたちはあれ以来、心霊スポットへは二度と近づいていないそうだ。