夏休み、大学生のKさん、Sさん、Tさんの3人は、普段から探検好きで、今回はネットで見つけた廃村巡りの旅に出かけることにした。
地図を頼りに山道を分け入り、目的の廃村を目指して歩き続けたけれど、日が傾き始めても一向にたどり着く気配がない。
道は次第に獣道と化し、うっそうとした森の中に迷い込んでしまったようだった。
「やばいな、このままだと日が暮れちまう」
Kさんが焦った声を出す。
SさんもTさんも、不安げな表情で周囲を見回す。
その時、少し先に苔むした石段が見えた。
石段の先には、朽ちかけた鳥居がひっそりと立っている。
「神社かな?とりあえずここで一晩過ごそう」
Kさんの提案に、皆異論はなかった。
鳥居をくぐると、そこには手入れされていない小さな社があった。
社の前には、かろうじて焚き火ができそうな広場がある。
3人は手早くテントを張り、持参した食材で夕食の準備を始めた。
夜になり、焚き火の炎が闇を照らす。
パチパチと薪が爆ぜる音だけが、静かな山中に響き渡る。
その時だった。
「ん?」
Tさんがふと顔を上げた。
「今何か聞こえなかった?」
KさんとSさんは、焚き火に視線を向けたまま、特に何も聞こえなかったと言う。
しかしTさんは確かに聞こえていた。
微かにどこか遠くから聞こえるような、すすり泣く声。
耳を澄ますと風に乗って聞こえてくる。
それはまるで、幼子が声を殺して泣いているようなか細い声だった。
「いや、本当に聞こえるって!」
Tさんが声を荒げた時、焚き火の向こう側、社の影からゆらりと光が浮かび上がった。
それは青白い炎のように燃えていて、人の頭ほどの大きさの光の玉だった。
その光はふわふわと宙を漂い、社の周りをゆっくりと巡り始めた。
「な、なんだあれ…人魂か?」
Sさんの声が震えている。
人魂は一つではなかった。
次々と社の周りに青白い光の玉が浮かび上がり、まるで何かに導かれるように集まってくる。
その数、五つ、六つ。
まるで何かの集会でも開かれているかのように、社の周りを漂い続ける。
そしてその人魂たちが集まるにつれて、すすり泣く声は次第に大きくなっていった。
それはもはや一人の声ではない。
何人もの人が同時にすすり泣いているような、異様な不協和音。
その声は耳の奥で響くような、直接脳に語りかけられているような感覚に陥らせる。
Kさんの喉から、ひきつったような息が漏れる。
焚き火の熱がなぜか全く感じられない。
体は芯から冷え切り、全身の毛が逆立つ。
人魂たちは、社の正面に並ぶようにして漂っている。
その光の揺らめきは、まるで何かを訴えかけているかのようだった。
しかし、彼らが何を伝えようとしているのか、その内容を理解することはできなかった。
ただその不明瞭な囁きのような音が、彼らの心をじわじわと蝕んでいく。
夜が明け始めたのは、一体いつのことだったろう。
空が白み始めると、人魂たちはまるで朝霧のように、すうっと消えていった。
すすり泣く声も消えていく。
3人は一晩中、焚き火の周りで震えながらその光景を見つめていた。
気がつくと焚き火は既に消えており、白い煙をあげていた。
3人は急いでテントを片付け、山を下り始めた。
「あーいうのって本当に出るんだな」
Sさんが力なく呟いた。
KさんもTさんも、ただ頷くばかりだった。