大学生のSさんたちは地形調査のため、とある山に入っていた。
普段から野山を駆け回るのが好きな、アクティブな学生たちだった。
この日も地図を片手に、鬱蒼と茂る森の奥へと進んでいた。
「おい、ここ、地図にない道だぞ」
Mが生い茂る草木に覆われた、かろうじて道だとわかるような細い獣道を見つけた。
好奇心旺盛な彼らは、普段なら立ち入らないような場所へも、調査の一環として分け入っていくことがあった。
今回の調査では、古地図に記された失われた道を探すという目的もあったのだ。
しばらく進むとあたりは木々が鬱蒼と茂り、昼間だというのに薄暗くなっていた。
そんな中彼らの目に飛び込んできたのは、苔むした小さな祠だった。
「なんだこれ、こんなところに祠があるなんて」
Lが呟く。
驚いたのはその祠の前に供えられたものが、どれも不気味なほど新しいことだった。
色鮮やかな花、まだしっとりとした米、そしてなぜか古いおもちゃの人形が一体。
まるでついさっき、誰かが供えたばかりのようだった。
「へぇ、まだ誰かお参りに来てるのかね。こんな奥地に」
グループの中で一番肝試しが好きだったKが、興味津々で祠に近づいた。
そしてえられていた人形を、何の気なしに持ち上げてしまった。
その瞬間「ヒュー」と乾いた風が吹き抜け、木々の葉がざわめいた。
まるで何かが怒ったかのような、そんな不穏な空気が流れたように感じた。
「K、あんまりそういうことしない方がいいんじゃないのか?」
Sが咎めると、Kは「大丈夫だって、人形なんて」と笑って元の場所に戻した。
しかしその時、祠の奥から「カタカタ」と何かが小さく揺れるような音が聞こえた。
「何のだ?今の音」
Nが不安そうに周りを見回す。
Sたちも振り返ったが、そこはシンと静まり返っている。
「風で揺れただけだろ」
Kはそう言ったが、全員でその場を離れることにした。
そこからが奇妙な出来事の始まりだった。
森の中を歩いていると、鳥の声が聞こえなくなった。
いつもなら賑やかなはずの森が、シンと静まり返っているのだ。
そして彼らが歩くたびに、すぐ後ろから「カタッ、カタッ」という音が、彼らの後をついてくるように聞こえる。
最初は「気のせいだろう」と誰もが思ったのだが、その音は次第に彼らの足音に重なるように、規則正しく聞こえてくるようになったのだ。
「なあ、これ、誰か後ろにいるんじゃないのか?」
Mが震える声で言った。
Sは背後を確かめたが特に何も見当たらない。
しかし一歩踏み出すたびに、またカタカタと音がする。
焦り始めたSたちはペースを上げた。
だがどれだけ急いでも、その音はぴったりと彼らの後ろからついてくるのだ。
そしてその音はだんだんと大きくなり「カタカタ」という音の中に、微かに何かを引きずるような「ズルッ、ズルッ」という音が混じり始めた。
「早く、早くここを出よう!」
Lが半泣きになりながら叫んだ。
彼らはほとんど駆け足になり、必死に森の出口を目指した。
その時Kがつまずいて転んだ。
「痛っ!」
Kが顔を上げると、目の前に祠に供えられていたはずのあの古びた人形が、こちらを見つめるように落ちていた。
その人形の目はまるで生きているかのように、彼らをじっと見つめているように感じられた。
そして人形の口元が、わずかに開いているように見えた。
そこから「ヒュー」という音が漏れ聞こえたような気がした。
Kは悲鳴を上げて飛び退いた。
他のメンバーも恐怖で言葉を失った。
Sたちはもはや地形調査などどうでもよくなり、ただひたすらに森から逃げ出すことだけを考えた。
彼らが再び走り出した時、背後から聞こえてきた音は、もはやカタカタという優しいものではなかった。
「ズルッ、ズルッ」と、まるで重い何かが地面を這いずるような音。
そして「ヒュー、ヒュー、」とすぐ耳元で聞こえるような不気味な息遣い。
Sたちは、もう振り返ることもできなかった。
彼らを森の奥深くで待ち受けていたものは、あの祠にまつわる、忘れ去られた存在だったのだろうか。
その後Sさんたちは無事に出られ、後ろを追ってきていた物音も消えたそうだ。