怖い話と怪談の処

あなたが今読んだその話、本当に「作り話」だと言い切れますか?

防空壕跡の下にあった鉄扉

廃墟探索を趣味とするYさんの話。

 

Yさんがその旧病院跡を訪れたのは、秋の終わりだった。

K県の山奥、地図にも載っていないその病院は戦前から存在し、戦後すぐに閉鎖されたという話だけが残っていた。

朽ちた階段を下り、地下室へと続く鉄扉を押し開けると、そこには使い古された手術台や倒れた薬品棚が残されていた。

埃とカビの匂いに混じってどこか焦げたような、妙な臭いが漂っていたという。

 

そんな中、地下の奥にまるで隠されていたかのような重厚な鉄の扉を見つけた。

取っ手には古びた錠前がついていたが、意外にも鍵はかかっておらず、鈍い音を立てて開いた。

その向こうには、幅一メートルほどの細い通路が続いていた。

天井は低く、壁面には無数の引っ掻いたような跡がついていた。

誰かが中から爪で這い出ようとしたように見えて、思わず背筋が冷える。

 

そのまま数十メートルほど進むと空間が急に開けた。

そこはまるで広い防空壕のようだった。

天井からの照明は見当たらないのに、どこかぼんやりとした橙色の光に満ちていた。

━━なぜこんな場所に灯りが?

と訝しんでいると、視界の奥に人影が動いた。

モンペ姿の女性がしゃがみこんで何かを並べていた。

その横では古びた学生服の少年たちが、蝋燭の灯りの下で何かを箱に詰め込んでいる。

 

一瞬、何かの撮影かとも思った。

だが彼らの動きはどこか不自然で、繰り返し同じ動作をしているようにも見えた。

Yさんが思わず、「すみません」と声をかけようとしたその瞬間だった。

全員が音もなく同時にこちらを向いた。

その顔が━━おかしい。

輪郭はあるのに、目も鼻も口も何もかもが曖昧だった。

まるで白く濁った水の中で見ているかのように、顔だけがぼやけていた。

なのにその人たちは、じぃ~っとYさんを見ている。

「まずい」

背中に何かが這い上がるような感覚に襲われ、慌てて来た道を引き返す。

狭い通路を転げるように戻り鉄扉を乱暴に閉めると、内側から「カン、カン…」と、何か硬いものを打ち鳴らす音がしばらく続いた。

 

その日、命からがら車に戻ったYさんは、帰ってすぐ友人たちにこの話をした。

「信じないかもしれないけど、本当にいたんだ」

と震えながら語ったそうだ。

 

数日後、その友人と一緒にその病院を訪れたのだが、あの鉄扉はどこにもなかった。

地下の壁は綺麗にコンクリートで塞がれており、削ったような痕跡さえない。

懐中電灯を照らして念入りに調べたが、どこにも見当たらなかった。

ただ地下の空気にだけ、微かに蝋燭のような焦げた匂いが漂っていたという。