怖い話と怪談の処

あなたが今読んだその話、本当に「作り話」だと言い切れますか?

映像編集中に自分だけに視える異変

映像制作会社に勤めるYさんは、このところ納期に追われ、会社に泊まり込む日々が続いていた。

日付が変わるのも珍しいことではなく、深夜の編集室はYさんにとって、もはや第二の家のようなものになっていた。

 

その日も遅くまで作業をしていて、深夜2時を過ぎた頃だった。

重い疲労感と戦いながら、Yさんは黙々と編集ソフトと向き合っていた。

カフェインと眠気覚ましのガムを交互に摂取し、集中力を保とうと必死だった。

ふと、プレビュー画面に違和感を覚えた。

今、編集している作品はとある企業のPR映像だったはずだ。

どこかの古びた建物の内部を撮影した記憶は一切ない。

しかし、画面には薄暗い廊下が映し出されていた。

「あれ…?」

Yさんは思わず手を止め、マウスを操作して映像を巻き戻した。

何度か再生と停止を繰り返す。

やはりその数秒間は確かに、見覚えのない廊下の映像が挟まっていた。

薄暗く埃っぽい廊下の奥には、人影らしきものがうっすらと見えた気がした。

まさか寝ぼけて、何か別のデータを読み込んでしまったのだろうか。

Yさんは自分の作業ミスを疑い、プロジェクトファイルを確認する。

だがどこにもその映像は存在しなかった。

不思議に思いながらもYさんはそのカットを削除し、作業を続けた。

 

数分後、再び同じような現象が起こった。

今度は先ほどとは別の映像だった。

やはりPR映像には関係のない、誰もいないはずの室内。

その空間の隅に、半透明の女がこちらを睨むように立っていた。

Yさんの背筋に冷たいものが走った。

「…気のせい、だよな?」

思わず声に出して呟いたが声は震えていた。

徹夜続きで集中力が落ちているのだ、きっと幻覚を見ているのだろう。

そう自分に言い聞かせ、Yさんは再びその不審なカットを削除した。

 

しかし、一度認識してしまうと、その違和感は意識の底にへばりついて離れない。

それからというもの、Yさんがプレビュー画面を再生するたびに、様々な場所で様々な異変が映り込み始めた。

ある時はオフィスビルの窓の外に、本来あるはずのない黒い染みが急速に広がる映像。

またある時は賑やかな商店街の映像に、通行人の顔がすべて黒い影になっている瞬間が混じる。

その映像は一瞬だけ現れては消え、Yさんが巻き戻して確認しようとしても、そこには何も映っていない。

まるでYさんにだけ見えるように、狙って現れているかのようだった。

 

Yさんは編集ソフトの不具合やシステムの誤作動を疑い、再起動を試みた。

しかし状況は変わらない。

目を凝らすたびに、何かがそこにいるという感覚だけが、どんどん強くなっていく。

Yさんの額には冷や汗が滲んでいた。

Yさんは全ての現象を「疲労による幻覚だ」と無理やり結論付け、なんとか残りの作業を終えた。

身体は鉛のように重く精神も限界だったが、Yさんは完成したデータを震える手でその企業に納品した。

 

それからしばらく経った頃、Yさんは仕事仲間と飲んでいる席で、ふとその企業の話題が出た。

「そういえばさ、あの会社、最近あんまり良い噂聞かないよな」

と隣に座っていた先輩が呟いた。

「ええ?何かあったんですか?」

とYさんが尋ねると、先輩は声を潜めて言った。

「なんかね、売上を伸ばすために、ちょっと言えないようなことを色々やってたらしいよ。

裏で変な取引とか、誰かの犠牲の上に成り立ってたとか、聞いただけだけどね」

その言葉を聞いた瞬間、Yさんの脳裏に、あの深夜の編集室で見た映像の数々がフラッシュバックした。

薄暗い廊下の奥にいた人影、Yさんを睨む半透明の女、窓の外に広がる黒い染み、顔が影になった通行人たち…。

 

そして、その全てが繋がったような気がした。

Yさんは、目の前のジョッキに入ったビールを一気に飲み干した。

口の中に、言いようのない苦い味が広がった。