Tさんは長距離運転手として夜間の配送中、山道に入り込んだ。
深夜の山道は普段から慣れていたが、その日はいつも通るルートとは少し違う道を選んでいた。
午前2時を過ぎた頃、Tさんの目に見慣れない「道の駅」が飛び込んできた。
疲れもたまっていたTさんは、休憩がてら立ち寄ることにする。
駐車場には、他に2台の大型トラックが停まっていた。
電気が煌々とつき、トイレも清潔に保たれているようだった。
深夜にもかかわらず、人の気配があることにTさんはどこか安心感を覚えた。
トラックを停め、少し伸びをしてから自動販売機へと向かう。
喉が渇いていたTさんは、冷たいジュースでも飲もうと小銭を投入した。
しかし、ジュースを選ぼうとしたその時、Tさんの目に違和感が走る。
自動販売機に並んだすべての缶に、Tさん自身の顔が反射して映っていることに気がついた。
え?なんだこれ…。よくわからない絵柄がついた缶が、鏡のようになっている。
そしてその反射の奥に、Tさんの背後に誰かが立っているかのような、奇妙な影が映り込んでいるように見えたのだ。
Tさんは思わずギョッとして、咄嗟に背後を振り返った。
しかし、後ろには誰もいない。
Tさんはゾッとして、不気味に思いながらも、もう一度自動販売機の缶に目をやる。
やはり、そこには自分ではない、歪んだ影が映り込んでいるように見える。
「これはおかしい」
直感的にそう感じたTさんは、ジュースを買うのもやめて、慌てて自分のトラックに戻ろうとした。
その途中で、ふと駐車場に目をやる。
先ほどまで停まっていたはずの他の2台のトラックが、音もなく消えていた。
全身の毛穴が開き、冷たい汗が背中を伝う。
Tさんは急いで周囲を見渡した。
すると道の駅の店舗の方から、ゆっくりと一人の老婆が歩いてくるのが見えた。
老婆はTさんの方へ向かって、よたよたとした足取りで近づいてくる。
そしてTさんの目の前まで来ると、ニヤリと口の端を上げ、しわくちゃな顔でTさんを見つめ、一言だけ発した。
「カワナイノカイ?」
その言葉は奇妙に響いた。
老婆はそれだけ言うと、「ヒヒヒヒ」と不気味な声で笑い始めたのだ。
その笑い声は深夜の駐車場に薄気味悪く響き渡った。
Tさんは背筋が凍りつき、考えるよりも早くトラックの運転席に飛び込んだ。
エンジンをかけ、急いでその道の駅から離れた。
数日後、いつもの仕事仲間と休憩中にこの話をしてみたそうだ。
Tさんが道の駅の場所を詳しく説明しても、誰もが首を傾げる。
「そんな場所に道の駅なんて、これまで一度も聞いたことがないぞ」
Tさんが立ち寄ったという場所には、地図上にも実際の道路上にも、道の駅は存在しなかったのだ。
Tさんは今でもあの夜の出来事を思い出すたびに、言いようのない寒気に襲われるという。