Tさんは、都心に建つ複合施設の、広大な地下駐車場の監視を担当していた。
深夜の監視室はいつも静まり返り、無数のモニターだけが規則的な光を放っている。
Tさんの仕事は、そのモニターに映し出される映像を監視し、異常があれば対処することだった。
その夜も、いつもと変わらぬ深夜勤務についていた。
時刻は深夜3時を少し回った頃。
Tさんはいつものようにモニターの映像を順に確認していた。
その時、ふと、あるモニターにTさんの視線が釘付けになった。
そこには、映っているはずのない通路が映し出されていたのだ。
Tさんの頭の中には、この地下駐車場のすべての通路や区画の配置図が完璧に入っている。
しかし、今モニターに表示されているその場所は、Tさんの記憶には全くない、見知らぬ通路だった。
Tさんは思わず身を乗り出した。
そしてその見知らぬ通路の奥に、さらに異常な光景が映し出されていることに気づく。
通路の壁際、薄暗い空間の中にスーツ姿の男が立っていた。
男は壁に向かって立ち、何度も何度も、ひたすら自分の頭を壁に打ちつけているのだ。
ドス、ドス、と鈍い音が聞こえてくるような気がした。
男の動きは規則的で、まるで何かに取り憑かれたかのように、ただひたすら頭を打ちつけ続けている。
Tさんは全身に悪寒が走るのを感じた。
これは夢なのか、それとも現実なのか。
Tさんは震える手で、そのカメラの周囲にある他のカメラの映像に切り替えてみた。
男の姿が映っていたカメラから目を背けたく、無我夢中でマウスを操作した。
だが、他のカメラに切り替わった瞬間、モニターの画面は突然、真っ黒になった。
まるで何かに覆い隠されたかのように、映像が完全に途絶えたのだ。
何が起こったのか理解できず、Tさんは焦燥感に駆られ、もう一度、先ほどの男が映っていたカメラの映像に戻してみた。
するとそこには、先ほどまで頭を打ちつけていた男の姿はもうなかった。
代わりにモニターに映し出された映像のカメラの真下から、男が見上げていたのだ。
その顔は、モニターのざらついた画質の中でもはっきりと認識できた。
顔半分は影に覆われ、真っ白な目だけが不気味にこちらをじっと見つめている。
口元はまるで笑っているかのように歪んでいた。
その視線は、モニター越しにTさんの魂を貫くかのように感じられた。
Tさんは恐怖のあまり、椅子から転げ落ちそうになった。
その日、Tさんは監視室から一歩も動くことができなかった。
あの通路は一体何だったのか。
壁に頭を打ちつけていた男、そして最後にカメラを見上げていた男は…。
恐怖に耐えながら一夜を明かし、Tさんは翌朝、すぐにそのカメラの場所へと向かった。
しかし、そのカメラが設置されているはずの場所には、通路など存在していなかった。
あるのはいつも通りの、無機質なコンクリートの壁だけだった。