Mさんが友人たちと3人でキャンプに来たのは、少し肌寒くなってきた秋の終わりだった。
予約していたキャンプ場は、平日ということもあってかほとんど人がいない。
それがまた焚き火の暖かさを一層心地よく感じさせた。
夜も更け、3人はパチパチと音を立てる焚き火を囲んで談笑していた。
薪が燃える音と、時折聞こえる虫の声だけが静寂を破る。
そんな中、ふとMさんの視線が林の奥に向けられた。
林のさらに奥。木々の隙間から、ぼんやりとオレンジ色の光が見える。
焚き火の明かりだ。
「あれ、他のキャンパーかな?」
友人の一人が呟いた。
もう一人も、「こんな奥にいるなんて、珍しいね」と首を傾げる。
確かに自分たちがいる場所ですら、管理棟から少し離れた奥まったサイトだった。
あれほど奥となると、許可された場所ではないのかもしれない。
「ちょっと、見てみようか」
Mさんが提案すると、友人たちも同意した。
好奇心と、少しばかりの不審な気持ちが混じり合う。
3人は懐中電灯の光を消し、なるべく音を立てないように、忍び足で林の奥へと進んでいった。
木々の間を縫って進むと、焚き火の光は次第に大きくなり、熱を帯びてくるのがわかった。
そしてその光の中心に、何かがいるのが見えてきた。
それは人の形をしていた。だが人の顔ではない。
焚き火の炎に照らされて浮かび上がるのは、丸くのっぺりとした顔のようなもの。
それはまるで白い提灯のような、あるいは風船のようなもので、感情が読み取れない。
目も鼻も口もない、ただ白いだけの顔。
それがゆらゆらと、まるで風に揺れるように動いていた。
さらに恐ろしいのは、それが一つではなかったことだ。
焚き火を囲むように、同じような白い顔が3つ。
彼らは規則正しいリズムで揺れている。
まるで何かの儀式を行っているかのように。
焚き火の炎がその白い顔たちを赤く染め上げたり、影を落としたりするたびに、彼らの存在がより一層不気味に感じられた。
Mさんたちは息を殺し、木陰に身を潜めたまま、その異様な光景をじっと見つめていた。
恐怖で足がすくみ、逃げ出すこともできない。
そこには言葉にならない、底知れない畏怖の念があった。
焚き火の炎がパチッと音を立て大きく揺れた。
その瞬間、白い顔の一つがゆっくりとこちらに、まるで視線があるかのように向いた。
Мさんの心臓が大きく跳ねた。
見られている。そう直感した。
友人の一人が小さな悲鳴を上げかけたのを、Мさんは慌てて手で口を塞いだ。
しかしもう遅い。白い顔はこちらを向いていた。
焚き火の周りにいた3つの白い顔が一斉に、ゆっくりとМさんたちの方へ向き直った。
その顔には、相変わらず何も描かれていない。
3つの顔は何の音も立てずに、ただひたすらにこちらを見つめている。
時間が止まったかのように、静寂だけが林に満ちた。
Мさんたちは一歩も動けない。
逃げることも、声を出すこともできない。
ただ、その白い顔たちが次に何をするのか、恐怖に凍りつきながら見守るしかなかった。
その静寂を破ったのは、Mさんの震える声だった。
「すみません、お邪魔しました!すぐ帰ります!」
その言葉がきっかけとなり、3人は同時に弾かれたように走り出した。
木の枝が顔に当たろうが、足元の小石につまずきそうになろうが、ただひたすらに、自分たちのキャンプサイトを目指して走った。
息を切らしてテントに戻ると、3人は真っ先に自分たちの焚き火に水をかけた。
ジュワッと音を立てて煙が上がる。
完全に火が消えたのを確認すると、半狂乱になりながら荷物をまとめ始めた。
テントも寝袋も構うものか。
最低限のすぐに持ち運べる荷物だけを掴み、3人は車が停めてある駐車場へと駆け戻った。
車のシートに身を投げ出し鍵を閉める。
外は暗闇。
林の奥からは、相変わらず焚き火の明かりがぼんやりと見えている。
怖くて、もう一度林の方を見ることもできなかった。
3人は夜が明けるまで、車の中で震えながら過ごした。
翌朝、夜が明けてもなお恐怖は去らなかった。
それでも、やはりあの焚き火のことが気になった。
恐る恐る3人で林の奥へと向かう。
昨夜、白い顔たちが焚き火を囲んでいた場所には、焦げた跡一つない。
まるで何もなかったかのように、ただ静かな林が広がっているだけだったという。